みゆきの森に聖母と祈りを

星月小夜歌

1. overture

 私は宇津森うずもり彩雪さゆき

 この星花女子学園で、4年前から司書教諭として働いている。

 私自身も星花女子学園の卒業生。一言で言えばOGである。

 星花女子学園は創立から70年以上の歴史を誇る女子校で、教職員にはOGも多数いる。

 なので、かつて生徒として同じ時間を同じ学び舎で過ごした少女達が、次の少女達を教え導く教師達となって再会することもある。

 1年前に赴任してきた、みゆき まりあ先生もその一人。

 しかし、私は、この時は知るよしもなかった。

 図書室という本の森で、一人で生きていた私に「好き」というものを教えてくれた、聖母のように優しくて、大好きなひと。

 それが、みゆき 先生だということを。



ー1年前 立成19年度 春ー


「このたび、星花女子学園で働くこととなりました、みゆき まりあ、と申します。どうぞよろしくお願いいたします。音楽科と合唱部顧問を担当いたします。趣味はピアノを弾くこと、コンサートに行くこと、美術館を巡ること等です。昨年度までは公立の学校に勤めておりました。これまで積んできた経験を少しでも早く生かして皆様の、また私の母校でもある星花女子学園のお役に立ちたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

 穏やかで優しそうな女性。これほどまでに聖母の名前が似合う人は初めてである。そして彼女もOGなのね。もしかしたら、私と在籍期間が被ってるかもしれない。

 ん……? 私、彼女のこと知ってるかも……? 幸先生の声、絶対に聞いたことがあるような気がする。

 それに、彼女の声が、不思議に心地よい。もっと彼女の声を聴いていたい。

 私は、人と距離を詰めるのは苦手だけれど、幸先生となら親しくなれるかもしれない。あんなに優しそうな人なんだから。

 きっと、私のような、本の森に引きこもってしまう人間にも、きっと優しくしてくれそうだから。

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