第51話 力の中で生まれた『それ』
「……? …………何が、え?」
シズルは仰向けに倒れながら蒸発した左腕を右手で探る。
「左腕が……燃えて……これは」
その一撃には明確な意思があった。
ただ燃やす。ひたすら、それだけのために存在していた。
ラナの中で、ラナを薪にしてきたことで、
『ラナ。彼女の熱は、暖かい』
炎でしかないはずなのに感じとれた熱。その時初めて、それは熱には種類があることを認識した。
『ラナの熱は不思議だ。心地が良いのにそこにいてはいけないと感じる』
ラナのような小さいが強く、優しい包むような熱。
『何故だろうか。最近、ラナの熱を感じていると存在を放棄したくなる』
そして、それのような、
(……お父さん……)
『……! ああ、――ああ……』
近づくものを、焦がすことしかできぬ熱。
『彼女はきっと、暖かくはなかった筈だ。それが――』
小さいラナから炎であるはずのそれが暖かいと感じるほどの強い
熱を感じる理由。
彼女が旅の中で急激に成長したからに他ならない。ただ燃えていただけのそれにはラナが急激に強くならざるを得なかった要因の心当たりがあった。
『――わたしが〝お父さん〟とラナを焼いたから、ここまで暖かくなったのか』
「なんなのよ……あんた。ラナじゃないわよね」
(こいつの正体は分かる。だがこいつの意思がわからない)
『焼く。焼かねばならない。ただそれだけしかしてこなかったわたしだからこそ』
どうやら聞こえていないらしい。それはシズルの問いに答えなかった。
(お前はラナを焼いていたでしょう? あの男がうるさく言ってた太陽とかいうやつでしょう?)
『ラナの敵を、焼かねばならない』
(そんなお前がラナの味方を何故するの!?)
「第一! 私はラナの敵なんかじゃないのよ!」
メキメキと急いで腕を生やし、体勢を立て直す。正直、シズルにとって今の状況は最悪なんてものではなかった。
相手は悪魔によっているシズルにとって逃げるのも難しい程の天敵。だというのに、シズルは攻撃することが出来ない。
「くっそ……! わけもわかんないし! どうすりゃいいのよ!?」
『悪魔……』
「あ? ……あくま?」
シズルはダイコクとの戦いの時に軽く堕転をしている。
最悪の状況が更に悪くなるのをシズルは感じた。
「……これは、間違いなく狙いは私ね?」
そう言って、シズルはいよいよ真剣にどうするか考える。
(ラナは当然傷つけられない。私も、まぁやられるわけにはいかないわ。なら……)
(死ぬ気で避ける。致命傷でも動く。死んでも生きて耐え続ける。これしかないわね)
そうやって無謀でゴリ押すことを決めた時、
「あら……?」
『…………』
ラナの体が停止していることに気づいた。
様子を見てみると、今は燃えている両目の周りでパチパチと火花が散っている。
『
「いや、悪魔じゃないわよ!? ……聞こえてないんでしょうけど」
『でも、これはラナを助けた熱、……? それに、これはラナの熱……? ラナ?』
「ラナでもないわよ。……ラナに間違えられたのはちょっと嬉しいけど」
『……わからない。これは……』
「……なんかあっちも混乱してきているわね……更によくわからなくなってきたわ……っと」
シズルが悩んでいると、背後から気配を感じる。
振り向くとわらわらとロウソクの騎士が近づいてきていた。
「あんたらも懲りないわ……ん?」
見ると騎士達の様子がおかしい。剣を持っていない上に足元がおばつかない。
そして何よりも、騎士達は侵入者であるシズルを狙ってなどいなかった。
騎士達は走り出した。光に釣られる蛾のように、
シズルは日本の大釘を出し、騎士達の足をはね飛ばす。
それでも騎士達は這いずって進んでいた。
「騎士から変態に変わったのかあんたらは」
シズルは騎士の一体の胴を釘で突き刺し、その騎士から噴き出した釘で、連鎖的に騎士達を全滅させた。
ボッ
短い爆発音がラナがいた方で聞こえた。振り向くと、ラナの体の足元が燃えていた。よく見ると燃えているのは地面から生えてきた騎士達で、地面から奇襲したところで返り討ちにされたらしい。
「……無事みたいね。というか、こいつらを燃やすのは迷わないのね?」
ラナの体を操っている炎はじっとシズルを見つめている。
(今はもう私を襲わないし、判断基準がわからないわ……)
「……ネツ」
「え? また熱?」
「ネツ、カ……リョク、ヒ、ヒ……!」
その声は地面から響き、そして今までの比じゃない量の騎士が基地の端から湧き出始めた。
「——!?」
そして、ラナの体の足元が流砂のようになりラナの体を沈め始める。
「ッな!? ラナ!」
シズルが慌てて駆け寄る。既にラナの体は胸の辺りまで沈んでいた。
このまま全身が呑まれようとしていたが、ラナを覆わんとする蝋が赤白く輝き、次の瞬間にラナの体を中心に火柱が噴き出した。
「あっつ! ラナ、だいじょう……飛んでる!?」
火柱がなくなり、ラナは足の裏からロケットのように炎を噴出して飛んでいた。
『わたしの熱で動く何かが来る。わたしの熱で動くのならばそれはラナの敵だ。焼かねば』
「いや、待ちなさい。変態騎士団の狙いは間違いなく貴方よ。このままじゃラナが危ないから貴方は逃げ」
『あのわたしを使っていた爛れたような熱もない。呑まれたか。なおさら焼かねば』
「聞けぇ! 薄々気づいてたけどあんた聴覚ないわね!?」
(くっそ、なんとか動きで……に•げ•ろ!)
シズルはボディランゲージでなんとか伝えようと頑張ったが、
『そこの……ゆらゆら揺れる悪のようで良い熱さん。』
「あんたさては視力も無いわね?」
どうも熱感知のみで判断しているらしく、シズルの努力は無駄に終わる。
『わたしは数分後にラナの敵を焼却する。離れていて下さい。燃えてしまうから』
そう言って、ラナの体を借りた炎は基地の端へと向かっていった。
「え、ちょっと!? ……ああもう! 全然通じないわね! 当然だけど!」
そう言って、シズルは頭をガシガシ掻いたあと、ラナの言った方向に走り出した。
「もう吹っ切れたわ! こっちも好き勝手やってやるんだから!」
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