第33話 奴らはやってくる
メテットは攻撃をシズルに任せてラナを抱えて洞窟内を走る。
「来た! 止まって!」
メテットはシズルの言葉を聞いて、シズルの支えとなる。
重心が安定したシズルは大釘を持って向かってくる二体の騎士を迎え撃つ。
騎士は上段に構えシズルを両断しようとするが、シズルはそれに合わせて、騎士の喉元に鋭く突きを放つ。
騎士は体から一本の釘が突き出る。だが騎士は倒れず後にくる仲間の為にシズルを抑えようとする。
「……離れろッ!」
シズルは足蹴りで掴もうとした騎士を蹴り、そのまま後ろにいた騎士ごと吹き飛ばした。そして、飛ばされた騎士に向かって釘を投げる。その釘は騎士の頭に突き刺さり、また一本の釘が騎士の胸辺りから噴き出る。
しかし、二体の騎士は消滅しない、ゆっくりとだが起き上がろうとしていた。
「……クソっ!」
「シズル! 逃げるぞ!」
メテットは騎士が動けない隙にメテットはシズルに肩を貸し、騎士から逃げる。
(シズルはああイってたがやっぱりヨワってる。カイフクがオソいのもあのホノオのリュウのエイキョウか?)
シズルの復活にはまだ時間がかかる。
その上洞窟内部は複雑に入り乱れており、メテット達はすぐに脱出できそうになかった。
しかし、それは騎士も同じ。視界が共有されているとはいえ、広大な洞窟の中で逃げ回るメテット達を捕まえるのは難しかった。
(それもオソらくイマだけだ! どうにかゲンジョウをカえないと…!)
逃げながら次の一手を考えるメテット。
するともこもこと壁が盛り上がる。
そして、壁が壊れてロウソクの騎士が湧き出てくる。
「……ええ!?」
「崩落とか考えないわねこいつらなら!」
シズルは釘で騎士の攻撃を受け止める。
「…グッ!」
シズルはメテットから離れて出てきた壁の穴に騎士達を押し込んだ。
そして、先頭の騎士に釘を刺す。
「縫い付けられてろ!」
騎士の体内から釘が噴き出す。その釘が壁に刺さり、先頭にいた騎士は壁の穴の中で動けなくなってしまう。先頭が動けなくなったので後ろにいる騎士も動けず、騎士が掘った穴の中で渋滞が起こる。
「今のうち……ウグッ……」
シズルは膝をつきそうになるのを何とか堪える。
メテットはシズルに肩を貸して、また走り始める。
「……きりがない! このままじゃいずれ……!」
そうこうしている間に前から複数の足音が聞こえる。
ダダダ…!
「……? アシオトがチガう!?」
「…あ~いたぁ~」
「…えっ!? この声…」
(でかい魔物の中で会ったあの……)
シズルは一度聞いたことがある声にぎょっとする。
何故ならその声の主は死んだと思っていたからだ。
「
「ヒトガタのケンゾク!?」
「……と、いうことは」
「
「
「……余だ。タフラだ」
「……」
メテットは沈黙する。
シズルは上を見上げメテットにもたれかかる。
「……今ほんとに限界なのに……」
(! シズルがツイにゲンカイをミトめた!?)
しかし、シズルはすぐに気持ちを切り替えて、
「……はぁ。いいわよ。来るなら――」
「頭があれだから仕方ないがそんなことを言っている場合ではないぞ。愚か者共。早く同志の手を借りるのだ」
「……はぁ?」
タフラの意外過ぎる言葉にシズルはすぐに受け入れることができなかった。
「タスけてくれるのか……?」
「そうだよぉ」
「ラナさんはあなたが運んで頂ければです。無機質な人。我々は信用出来ないでしょうし」
そう言いながらキャスとマスティはシズルの両肩を担ごうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? あんたらタフラの味方で、ラナの敵じゃないの!?」
「……まぁそうだな。最初、攻撃したの俺らだもんなぁ……」
「といっても最初攻撃したのはタフラにただ『敵が来た』って言われたからっていうかぁ……」
「敵だろうが。だというのに同志よ。何故助けたがるんだ」
「いやいや、ラナさんは敵じゃねぇよ。エリオスさんの娘じゃねぇか」
「……だからだ。今が絶好の機会だというのに」
「やっぱしばいとくかこいつら」
「マてシズル。イマはとにかくテがホしい!」
メテットは必死にシズルを止める。
シズルはメテットが抱えているボロボロのラナに目をやった。
(……仕方ないか)
「わかったわ。但しあんたらは前に行って。特にタフラ。ラナに近づくんじゃないわよ」
「……分かっているとも。指図するな」
「うん。あたしたちは道案内するねぇ? えーと……そういや名前なんていうのぉ?」
「……シズル。あっちのラナを抱えているのがメテット」
「シズル。メテット。了解です。では……シズルさん。運びます」
「はい?」
マスティがリードに合図を送る。
リードはシズルの両足を持ち上げようとする。
キャスとマスティに肩を担いでもらっているシズルは足が地面から離れ始める。
「ちょ!? なんで私の足持とうとするの!? それだと体が持ち上が――」
「持ち上げようとしているのです。シズルさんはラナさんのご友人。
「んな気遣いいらないわよ!? っていうか気遣いなのそれ!?」
シズルの抗議によりキャスとマスティの肩だけを借りることになった。
リードはタフラの監視役に回される。
タフラは出口までの道案内をすることとなった。
「……そういえば、あんた達。何でここがわかったのよ」
「あたしたちエリオス様とラナ様の居場所ならわかるんだー。それであのでっかい塔が燃えているのが見えて、ラナ様が危ないって思ってぇ……」
「そもそも、オマエタチはラナのイノチをネラっていたんじゃないのか?」
「狙っているのはタフラだけだぜぇ。俺達は別にラナさん傷つけようとか思ってねぇ。……最初のあれは事故っつーか、ラナさん首だけになってたから姿がみえなくてな……敵だと思って突撃しちまった」
(まぁその後、速攻でタフラの頭潰しに来たシズルさんにビビッて降参したがよぉ…)
リードの話を聞いたタフラが不満そうにリードを見る。
「リード。わが同志よ。何度も言っているがラナはいつでも余達を命令で縛れる立場にある。その娘は自由への敵なのだ。余と同じように人となれた同志よ。いつまでもそんな隷属的思考では利用されるばかりだぞ」
「主に従うのは眷属の役目ではないですか? 名前をもらった恩もあるのです。タフラだって……」
「……名前なぞ……首輪のようなものだ」
「じゃあ、なんであんたは私達に名乗ったのよ」
眷属たちの会話にシズルが割り込む。
「そんな考え方なら普通名乗らないわよね。あんたの名乗りには誇りが感じられた。自分の名前に不満がないのならそんなこと言っちゃ駄目よ」
タフラはシズルを睨みつけたが、すぐに気まずそうに顔をそらした。
「……そうだな。確かに余が悪かった。少なくともその時はそういうつもりで名付けたわけではないのだろうからな」
「……?」
「ついてこい。同志の頼みよりここから逃がすが……その後は余とは敵対関係だ」
そう言うとタフラはズカズカと進んでいく。
「ちょっとぉタフラはやーい!」
「急ぐのだキャス。ここから先は時間との勝負だ!」
メテット達は騎士に見つからないよう、出口へと急いだ。
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