ガリガリポンポン




ハムスター。

生まれつき 匂いが全く判らない仔。



出会った時

見た目にも

健康じゃないのが判る。


ガリガリ。

手も足も まち針より細い。

 目には 隈が出来ていて

頬はコケている。

おタマは

ねじれてる。

胸は 水が貯まったように

たぶん 浮腫んでいて。

当然 毛にツヤもなく

ボサボサだ。

1cmあるかどうかの大きさ。



虚ろな表情で

全く元気が無さそうだった。



別の仔の

おやつやフードを買いに立ち寄った

ショップの片隅にいた仔だった。


「誰も連れて帰らない」


そう思った。

一緒に来ていた家の者も

同じ事を思っていた。


置いては行けない。


ショップの人には

強く止められたのだ、

明日にも死ぬかも知れないから、と。


誓約書も書いた。

持てるだけ

追加で あれこれも買い込んで。


「今から あなたは うちの仔です。

       一緒に おうちに帰ろう」


そう声を掛けた時。

ここまで驚いた顔のハムスター

初めて見た。


匂いが判らない事は

家に帰って すぐに判った。

ただ 家についた時には

もう 虚ろな表情ではなく

全開の笑顔だった。


ヒマタネの殻を割る力もない。

目の前の 沢山のごはんや

おやつも 上手く噛めない。

歯形すらつかなかった。


最低限の体力がないのだ。

わりと上手に飲んでいる水が

美味しい と 涙を流して喜ぶ。


ミックスジュースを

作って飲ませた。


先ずは 栄養だ。


凹んでいたお腹が

みるみるポンポンになった。


美味しいと泣いた。

お腹がいっぱいだと泣いた。

よく涙を流すハムスター。






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