第66話現実問題~ブリリアントside~

 結局、元婚約者からの謝罪はありませんでした。



「相変わらずですね」


「ユリウス国王に会わなかったのだろう?」


「意味がありませんから」


「確かに。あまりに酷い思想の持ち主だったから、うちの者達が苦言を呈していたよ」


「……それはまた、話が噛み合わなかった事でしょう」


「ははっ。話が噛み合わないのは事実だったね。驚いたよ。会話そのものが成立しない事にね。一国の国王があそこまで物知らずだったとは……大臣達も驚いていたよ」


「物知らずの上に恥知らずですから」


「まぁね。次期国王としての教育は受けていたと聞いたが、それも怪しいと感じた程だよ。なんというか……思考回路が我々と違うというか、そもそも我々とは物事に対する考え方が違うと感じたよ。あれを野に置いておけば、国の為にならないな、と……そう思った。もっともそれは私だけが考えたのでなく、大臣達も同じように感じたようだけどね」


「……でしょうね」


「ユリウス国王は……なんていうか純粋過ぎるのかな、と思ったよ。悪い事は悪い、良い事は良いと単純に思い込んでいる……というか。物事には表と裏がある事を理解していても納得できないというか、受け入れたくないというか。それは別に構わないのだけれど、そういった事を表面に出すのはいただけないね。とにかく、ユリウス国王には国を治めるのは難しいと感じたよ。あれは王というより、子供だ」


「そうでしょうね……。そもそも国王という立場で、あの性格は不適切ですもの」


「まったくだ」


 皇太子殿下と二人で頷き合いましたわ。本当にあの性格と考え方は国王失格ですものね。

 大臣達の様子では支援は難しそうですし。


「陛下がそろそろ引導を渡すべきだと言ってね」


「それは……」


「もう、あの国は必要ないか、と」


「そうですか……では、併合の方向に?」


「いや、それはない。国としては存続させていくよ。……しかし、王族は不要だ」


「では!」


「都合の良い事にユリウス国王はリーベル共和国に留学していた。自由を尊ぶ国だ。彼がその自由思想にかぶれていてもおかしくない。かの国を参考にするという名目で静かに退陣願う予定だ。国王の退位、新政権の発足というシナリオで進めるのが一番だと思う」


「それがよろしいかと思いますわ」


「まぁ、リーベル共和国の自由はかなり独特で血生臭いのだけれどね」


「そこは参考にする必要はないと思いますね」


 ひとつ頷いて、皇太子殿下は話を終わりとされました。



 その後、帝国の援助と引き換えにユリウス国王を静かに退陣する事に決まったのです。

 表向きは『アダマント王国の今後の発展を祈って』という名目ですけど。


 ユリウス国王はリーベル共和国の『自由と平等』の精神にかぶれる事で国政の改革に目覚めた、という事を流布したのが功を奏した結果でしょう。共和国と比べると穏やかで平和的な改革です。血が一滴も流れていないからでしょうか、国民はすんなりユリウス国王の退陣を受け入れたそうです。

 これはリーベル共和国に対する皮肉も含まれているそうですわ。まぁ、国としては正しい判断だとは思いますが、それを表にしない方がよろしいかと。それに、共和国では血の海に染まっていますので今更ですし! これで少しは大人しくなるでしょう!最近、きな臭いですしね。妙な動きをされても困るだけですもの。



「ブリリアント、こちらのドレスが良いのではなくて?それとも、あちらのレースを使ったデザインが良いかしら?それともダイヤモンドをちりばめたドレスは如何かしら?」


 お母様が結婚式のドレス選びに夢中になっていますわ。

 私の結婚式なのですが、本人より両親がドレス選びに夢中で……。


 一年後、私は帝国の皇太子妃になります。

 そしていずれは皇后に。

 夫となる皇太子殿下は、嘗ての婚約者とは違います。同じものを見て、感じる方です。 私の考えを理解してくださっている同士でもあります。ですから安心して嫁げるというもの。今にして思えば、ユリウス元国王とは縁がなかったのでしょう。





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