第51話新たな王~ユリウス国王side~

 

「陛下、お手が止まっております」


「ジークフリード……。お前は飽きないのか?朝からずっと資料作成だぞ?こんなもの王のやる仕事ではない」

 

「そのような事はございません。王国の主要産業を纏めた書類の作成はとても重要な案件となり得ます。これを疎かにする事は出来ません」

 

「そうか……。まあ、お前がそう言うのならそうなのだろうな……」

 

「それにこの書類を作成する事により、他国との交渉の際に有利に働く可能性があります。今のうちに作成しておいた方が宜しいのではないかと愚考します」

 

「うむ。そうだな。では続きをやるとするか。」

 

「はい」


 あの公爵家から奪い返したダイヤモンド鉱山の採掘権。

 狸爺どもが、その権利を行使するなら報告書を作成する義務があると抜かしたせいだ。

 正直、面倒臭い。

 だが、必要な事だと割り切って作業を続ける事にした。


 事務仕事が増えた。

 最近では机に向かう時間が増えている気がする。

 即位当時はこうではなかった筈だ。


 デスクワークばかりは流石にキツイ。

 ジークフリードは涼しい顔で書類仕事をこなしているので文句も言いにくい。


『必要な仕事ですから』


 そう言って爺どもから渡された書類を淡々と処理していく姿は実に頼もしく見える。

 なのに爺どもはジークフリードを評価しない。何故だ!?全く以って忌々しい。


 

「――陛下、また手が止まっておりますよ」

 

「ぐぬぅ……、解った。続ければいいのだろう……」

 

「はい。頑張ってくださいませ。私はこちらの書類を確認していきますので」

 

「ああ……」


 僕が国王になってもジークフリードは変わらない。本当に出来た男だ。

 ジークフリードが評価されないのか理解に苦しむが、そのおかげで僕は気楽に仕事をすることが出来るのも確かだった。

 ありがたい話だ。


「陛下。そろそろ休憩のお時間に致しましょう」

 

「ん? もうそんな時間なのか?」

 

「はい。お茶をお持ちしました。如何でしょうか?」

 

「ああ、貰おうか」

 

「畏まりました。直ぐに用意させます」

 

 ジークフリードが用意した茶を飲みながら、窓から外を眺める。相変わらず良い天気だ。

 

「――陛下」

 

「なんだ?」

 

「例の件なのですが……」

 

「またか?」

 

「はい。残念ながら」

 

「そうか。分かった。下がって良いぞ」

 

「失礼いたします」

 

 ジークフリードが出ていった後、溜息を吐く。

 最近、国内の貴族共が騒ぎ始めてきた。

 関税が高くなったせいだろう。

 最近では商人達の訪れもめっきり減ったらしい。

 その影響もあって国内は物資が不足し始めていると訴える者もいる。

 馬鹿げた話だ。

 我が国のダイヤモンドを目当てにしている国は多い。

 古い契約などこちらから切り捨てればいいのだ。

 我が国に不利益な条約など結ぶ必要などない。そんな国などこちらから願い下げだ。

 外交に支障がきたしていると言うが、そんなものは彼らの怠慢が原因だろう。国など他に幾らでもある。我が国と親しくしたいと願う国などいくらでもいるというのに、何を勘違いしているのだろうか? 愚かな連中だ。




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