第37話四年前~ブリリアントside~


 それから数ヶ月後、新作発表の舞台「アラジン」は多くの拍手喝采と共に終幕致しました。


「ユリウス殿下、観に来てくださったんですね」


 意外な人物に出会いました。一応、招待状は送りましたが芸術に興味のない王子が来るとは思ってもいませんでした。意外です。彼は私の姿を認めるなり不機嫌そうな表情を隠そうともしません。相変わらず愛想の無いことです。私がユリウス王子に微笑みかけても、嫌そうにしかめ面を返して来られます。全く本当に失礼な方だこと。繕う事もできないなんて王族としてあるまじき対応ですわ。


「なんだアレは」


「アレとは何のことでしょう?」


「女どもが舞台の上で飛んだり跳ねたりしていた事だ!しかもなんだあの衣装は!破廉恥極まりない!」

 

「あれは、ベリー伯爵夫人が考案したものですよ。彼女は異国の文化にも精通していますからね」

 

「何?あの女の発案なのか?」

 

「ええ、彼女が言うには東洋の国に伝わる踊りらしいですわよ」

 

「東洋の?異国の文化か。それにしても、我が国の品位を落とすものだ。即刻中止しろ!」

 

「それは無理なお話ですわ」


「なに!? 王太子の命令に背くのか?」


「今日の舞台は大成功を収めました。それを殿下お一人の我が儘のために取りやめなど出来ませんわ」

 

「我が儘だと!? 僕は、あんな格好で女性が大衆の前に出るのは許せん。それに男まであのような格好をさせるとは。なんとも目に毒だ」

 

「あら、ユリウス殿下は男性役の方々の肌の露出がお嫌いでしたのね。それなら心配無用でございますわ。ベリー伯爵夫人は女性役専門でございますから。男性の方は全身タイツでいらっしゃいますので、ご安心くださいませ」

 

「そういう問題ではないっ!!」

 

「まあまあ、落ち着いて下さい。せっかく観に来たのですからベリー伯爵夫人に会いに参りましょう。きっと彼女も喜ぶと思いますわ」

 

「ふんっ、勝手にするがいい。僕の知ったことかっ! 気分が悪いので帰らせてもらう!」


 護衛を引き連れて帰られていきます。一体何をしにいらしたのでしょう。主役に挨拶もせずに帰ってしまわれるなんて。そういえば、ユリウス王子は花束一つ持っていませんでした。祝うつもりが元々なかったということでしょう。相手に対して失礼過ぎる態度は相変わらずのようです。学園生活での成長が全く見られません。あの調子で本当に集団生活が可能なのでしょうか?なにやら噂では「トラブルメーカー」とかなんとか。


 確かに彼がいるだけで、場が混乱する気がします。

 私はその後、「アラジン」の大成功を祝うためにベリー伯爵夫人を夕食会に招きました。彼女は大袈裟に喜んでくださって、とても嬉しそうでしたわ。彼女から次回作の要望もいただき、また新たな試みに挑戦することを約束し合い、楽しいひと時を過ごしました。




 この新しい舞台は、後に「ミュージカル」と名付けられ世界中で親しまれることになるのですが、この時の私はそんな未来が訪れるとは露ほども思ってもいなかったのです。





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