第9話八年前~ブリリアントside~


 こちらにどんどん近づいてくるユリウス王子。その顔は憮然としています。

 前評判通り、ユリウス王子は大変な美少年です。ただ美しい少年というだけなら数多く見ましたが、彼は存在そのものに「華」があります。

 容姿だけを見れば将来が楽しみですが、感情を全く隠そうとしない王子の未来はこのままだと暗礁に乗り上げてしまうでしょう。


 どうやら感情を上手くコントロールできない方のようです。


 あれでは苦労するでしょう。 

 そして、それを私に補って欲しいという狙いと期待が王家にあるという事も瞬時に読み取れました。


「ブリリアントは賢いね」


「心を読まないでください」


「おや? 魔法使いじゃあるまいし、お父様はそんな事はできないよ。ブリリアントの愛らしい顔に書いてあっただけだよ」


「そんなに分かり易かったですか?」


 これは家庭教師に叱られてしまう案件です。

 淑女たるもの相手に己の心情を読み解かれるなどあってはならないことですもの。


「いいや、ブリリアントの心情を読み取れるのは私かお母様位だろう。心配せずともブリリアントは立派なレディだよ。猿真似もできないどこぞの王子と違って」


 王子は猿以下だと酷評するお父様。

 あら?

 王子は立ち止まって護衛の男性から何やら耳打ちをされている様子です。

 恐らく、私達親子のことで何かしらの注意を受けているのかもしれません。しかめっ面の顔を頑張って笑顔にしようと頑張っていらっしゃいますから間違いないでしょう。王子は笑顔が苦手なのかしら?

 それにしても中々出来る護衛ですわ。

 不機嫌全開に来られて友好関係を築ける人は稀ですもの。特殊な趣味でもない限りありえません。残念ながら私は普通の感性の持ち主ですから王子の期待には応えられません。

 

「クスッ」


「どうしたんだい、ブリリアント?」


「面白い事を思いついたんです、お父様」


「おやおや、我が家のお姫様は王家のが気に入ったのかい?」


「人形にしては些か礼儀知らずですわ」


「なら、やはりだね」


「懐くかどうかわかりませんけど」


「構わない。ブリリアントの好きになさい」


「では、お父様。私、行って参ります」


「ああ、行っておいで」


 お父様に挨拶を済ませ、王子の方に向かって歩き出すと、どうでしょう。私が近づけば近づくほど口元が引きつり、心なしか笑顔が歪んで見えますわ。

 その姿は見ていて面白いほど滑稽でした。

 

「初めまして、ユリウス殿下。私は、シーラ帝国のレオノール皇女とアダマント王国シャイン公爵の娘、ブリリアント・シャインですわ」


 身分が高い者から声をかけるのは礼儀として当然のこと。

 しかも、帝国の名前までわざわざ出した意味をしっかりと考えてくださいね。


「名を名乗る許しを与えます」


 私の至極当然の言葉に更に顔を歪める王子。

 顔が歪みこむではありませんか。


 随分と素直な方のようです。これは王宮では生きづらいでしょうに。


 既に戦いは始まっております。

 貴方が王の器かどうか、そして王の資質を持っているのか、それを見極めなければならないのですもの。周囲の皆様も鵜の目鷹の目で私達を観察しておりますわ。

 

 どうか、期待に応えてくださいね。


 

 


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