第6話異端の存在~ブリリアントside~


 王都の屋敷に戻った私を待っていたものは、婚約破棄を祝うパーティーでした。


「おかえり、ブリリアント。今日は随分と活躍したようだな」

 

「おかえりなさい。今日は実に素敵な日だわ。お父様と一緒に王宮に乗り込んだ時の国王の真っ青な顔。あら?真っ白だったかしら?ブリリアントにも見せたかったわ。いっそのことそのまま会場に乗り込もうかとも思ったくらいよ。お父様が『ブリリアントが活躍しているからだめだ』なんて言うから仕方なく諦めたの。残念だったわ」


 両親の言葉は驚きと同時に納得するものでした。

 それというのも会場に両親と国王夫妻が来なかった理由が判明したからです。二人は知っていたのでしょう。事前に王太子達の作戦を知り、手を回していたに違いありません。だから、二人は会場に来る事無く屋敷で待っていたのですね。


 お二人がこの婚約を嫌がっていたのは分かっていましたが……でもまさか、先回りしていただなんて……私もまだまだのようです。

 

「ただいま戻りましたわ、お母様。お気持ちだけで十分です。お忙しいお二人にお時間をこれ以上割いて頂くわけには参りませんもの」

 微笑みながら両親の話に相槌を打つ。心では、両親が動いてくれていた事実に驚きと感動、そして自分を信じてあの場を任されていたという信頼に胸がいっぱいになった。


「ブリリアント、そんなに謙遜せずとも大丈夫だ。今回の件は、王家の有責となった。お前に非はない」


「全くだわ。こっちはあれだけ反対したにも拘わらずゴリ押ししてきたっていうのに!自分の息子の教育位しっかりしておいて欲しいものだわ」


 両親、特にお母様は私と王太子との婚約には大反対だったので随分とご立腹の御様子です。国王陛下の粘り強い説得と懇願に最後は折れたようなものですから致し方ありません。

 お母様が婚約に何故反対したのか、今なら理解できます。

 私達が性格からしてソリがあわないと見抜いていたのでしょう。実際、私自身も王太子との結婚は「仕事の一環」としか思えませんでした。あのまま結婚していても仮面夫婦になるのが関の山だったでしょう。


 私が王太子の婚約者に収まったのは王家の都合以外の何物でもありません。

 王家としては公爵家との繋がりを強固にしておきたかったのでしょう。

 それだけシャイン公爵家は、この国で異端な存在であるという証。敵にまわせば国が滅びかねませんものね。



 父であるルキウス・ゴットリープ・シャイン公爵は、王弟。現王の実弟であり、自ら臣籍降下し『公爵』になることを選んだ男性です。その背景には王位継承権問題がありました。継承問題と言っても二人が腹違いの兄弟とか仲が頗る悪いというものではありません。

 

 二人は父と母を同じくする兄弟。

 

 ただ、弟の方が兄よりも遥かに才能があったという一点を除けば理想の兄弟になれたでしょう。


 世継ぎとして、幼い頃から厳しく教育されてきた国王陛下は弟にあからさまな嫉妬を露わにしたことは無かったものの、その胸の内は火を見るより明らか。弟の才を認めざるを得なかった兄はその実力を妬み憎んでいました。弟王子は兄王の心情を理解して敢えて臣下に降ったと専らの噂です。出来すぎた弟を持つ兄の気持ちを汲んだ結果だという憶測は二十年近く経つ今でも根強く残っている程に。

 

 もっとも、その気遣いも大国の皇女を娶った段階でご破算になったのですから、こればかりの運命の悪戯としか言いようがありません。何しろ、父と母が出会った時、既に父は臣下に降っていたのですから。

 




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