第39話 スキル選び

ダンジョンから脱出したら、もう大分遅い時間だった。

ゼッツさんから借りてる離れに戻り、俺は体を清めてからベッドに飛び込む。


ふかふかだ。

流石貴族のベッドは一味違うぜ。


「しっかし……地獄だったな」


モンスターハウスの殲滅は本当にきつかった。

中ボス戦とどっこいレベルで。

まあだがそのお陰で、レベルが短期間で更に三つも上がった訳だが。


もちろんその事でソアラに感謝する気は皆無である。


「全く、ソアラの奴め……取り敢えず、スキルポイント振っとくか」


今回6レベル上がったので、増えたSP36だ。

余らせていた分と合わせて51ポイントある。


と言いたい所だが、中ボス後に完全耐性を10ポイントで取っているので残りは41。


「さて……何を取るか」


レベル上げの事だけを考えるのなら、鉄板はマスタリー系だろう。

自力の引き上げになる。

ただ中ボス戦を考えると――どうせまた狩らされるはず――瞬間火力を期待出来る攻撃スキルをも捨てがたい。


ああ、そう言えばブレイブハートもあるな。

使えばディレイリセットに加え、完全回復まである勇者の狂スキルだ。

ブレイブオーラを連続して使える様になるので、これが第一候補だな。


「プレイブハートは20ポイントだから、残り21ポイントで……」


「アドル!」


なんのスキルを取るか迷っていると、部屋の扉が勢いよく開く。

犯人は言うまでもないだろう。


「どうしたんだ、ソアラ」


勢いよく扉を開けた無作法には言及しない。

言うだけ無駄だから。


因みにソアラは寝間着姿だ。

この姿だけ見ると、年相応の可愛らしい女の子に見えるから困る。


「スキルだよ!」


「スキルなら今何を取ろうか考え中で――」


「ちゃんと製造のスキルとってね!」


俺の言葉を遮り、ソアラが食い気味に言葉を捻じ込んで来る。


「製造スキル?ああ、そういやオリハルコンで武器を作ってくれって言ってたな」


約束したのでもちろんそのうち取るつもりではあるが――


「もうちょいレベルが上がったらな」


今は一刻も早く強くならねばならない。

でないとソアラの求める無茶なレベル上げや、特訓がきつすぎる。


「ダメダメ、善は急げだよ!」


「全然、善じゃないんだが?」


「新しい武器が早く欲しいの!だから善だよ!」


ソアラが満面の笑顔で、超自分勝手な事を言う。

相変わらず我儘全快である。


「戦闘系スキルを取ったらレベル上げも楽になるから、ある程度レベル上がってからって事で……」


「楽してレベル上げなんてしちゃだめだよ!最強への頂は辛く厳しい物なんだから、ちゃんと歯を食い縛って昇って行かないと!」


そんな頂を目指した覚えは微塵もないんだが?


俺が目指すのはモーモ農家としてのスローライフだ。

それだって別に極めるつもりなど更々ない。


「という訳で!製造スキルに決まりね!」


なにがという訳なのかは分からないが、どうやら俺の意思とは関係なく決定してしまった様だ。


決定権は俺にあるんだから無視すればいい?


そんな真似したら、後々が怖すぎるので無理です。


「はぁ……しょうがないな、全く。その代わり、訓練やレベル上げをもう少しマイルドに頼むぞ」


「え?それはダメだよ。厳しい訓練で頑張って強くなろう!」


自分の意見は通しておいて、こっちのは即却下かよ。

本当に困った奴である。


因みにブラックスミスの武具製作は30ポイントもかかってしまうので、残りはたったの11ポイントだ。

余った分は、10ポイントでとれる上級クラスのマスタリーでも取るとしよう。


「ほれ、取ったぞ」


ソアラは勇者固有の鑑定眼持ちなので、俺がスキルを取ったのは一目瞭然だ。

なので騙す様な真似は出来ない。


「やったー!ありがとうアドル!」


ソアラが俺に抱き着き、ほっぺにお礼のキスをして来る。

じゃっかん気恥ずかしい。


「お、おう……」


まったく、子供の癖にませた事をするもんだ。

こんな姿を娘ラブのゴリアテさんに見られた日には――


「……」


ソアラが開けっ放しにしたドアの向こうに立つ、目を言開いて此方を凝視しているゴリアテさんと目が合う。

うん、思いっきり見られてた。


……よし、気づかなかった事にしよう。


「ソアラ、もう夜も遅いし俺は寝る。お前も部屋に戻ってさっさと寝ろ」


そう言って俺は布団を頭から被った。


「うん!じゃあお休みアドル!あれ?お父さんどうしたの?」


ああ、今日は本当に疲れた。

数日前までの安息の日々が懐かしい。

そんな事を考えながら、俺は眠りにつくのだった。

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