第21話 出世払い
「いらっしゃいませ」
店の扉を潜ると、俺と同い年位の両おさげで前掛けをかけた女の子が声をかけて来た。
随分と小さいけど店員さんかな?
「あ、ベニイモさん」
どうやら少女とベニイモは知り合いの様だった。
まあここが行きつけの店らしいから、当たり前っちゃ当たり前か。
「こんにちは、モガちゃん」
「元気にしてたか?」
「は……はい……」
後から入って来たタロイモの言葉に、モガちゃんと呼ばれた少女は何故か顔を俯向かせてもじもじと答える。
二人の間に何かあるのだろうか?
けどそれにしては、タロイモは平然としている様に見える。
……ああ、顏が厳つくて怖がってるのか。
俺と同世代の少女なら、ヤクザ寄りのタロイモの顔にビビるのも仕方がない事ではある。
「おう、おめぇらか?この前武器を作ってやったばっかなのに、何しに来たんだ?」
奥のカウンター。
筋骨隆々、白髪白髭の厳つい壮年の男性が野太い声をかけてくる。
「ガンテツさん、今日は師匠にここを紹介しようと思って来たんですよ」
「師匠ぅ?」
ガンテツと呼ばれた男が俺を凝視する。
まあどう考えても年下の俺をベニイモが師匠とか呼んでるのだから、まあその反応も当然だろう。
「て事は、こいつが例の天才か」
「その通り!ゾーン・バルターの再来!勇者ソアラ師匠の相棒です!!」
「……おい」
こいつは全く……
まあ散々吹聴してる相手みたいだから、今更自重は無意味っちゃ無意味なんだろうが。
「ほう。どう見ても普通の子供にしか見えんがな」
「師匠は凄いんですよ。午前の訓練だって、私とタロイモ二人がかりで手も足も出ませんでしたから」
「いや、別にそこまで圧倒的じゃなかったぞ」
確かに処理は出来ていたが、楽勝って程ではなかった。
話を盛る奴だ。
「成程成程。どれ、お手並み拝見と行こうか」
「うわっと……」
カウンターのガンテツさんが、急に剣を俺に投げてよこして来た。
急に何だってんだ?
「そいつを振って見な。それでだいたいの実力が分かるってもんだ」
店内はかなり広いので、俺が剣を振るぐらいは余裕だとは思う。
それに見ただけで相手の技量が見抜けるなら、大した目利きだとも思う。
けど、なんで俺が態々腕前を披露しないといけないんだ?
「まあいいか」
数度剣を振る程度、大した労力でも無し。
相手はイモ兄妹と懇意にして入るっぽい人物だし、渋って二人との関係に余計な棘を刺すのもあれだからな。
素直に従うとしよう。
「ふっ!はっ!」
俺は鞘から抜かずに剣を振って見せる。
「こいつは驚いたな……その剣捌き、俺の見てきた中じゃ二番目だ。この年でそれだけの腕があるなら、確かに第二のゾーン・バルターってのも頷けるな。と言うかボウス。お前さん本当に市民クラスなのか?」
まあ自分で言うのもなんだが、剣の技術はなかなかな物だと自負していた。
何せ技術に補正のかかるマスタリーを複数取っている訳だからな。
単純な技術だけなら、ぶっちゃけ勇者であるソアラよりも上だったりする。
「ええ」
ガンテツさんの疑問に、俺は涼しい顔でイエスと答えた。
両親やイモ兄妹にも伝えてない俺の秘密を、初対面の人間に教える訳がない。
「そうか。因みに、一番はゾーン・バルターだ」
ガンテツさんはゾーン・バルターの技量を知っている様だ。
でも、この人貴族嫌いだった様な?
ゾーン・バルターはクラスこそ市民だが、貴族だと俺は聞いている。
ああでも、連合戦技大会を見に行けば別に知り合いじゃなくてもその戦いぶりは見れるか。
連合戦技大会。
魔属領と隣接する4国が開催する、5年に1度開催される力の祭典だ。
ゾーン・バルターはその大会で連続優勝を果たしていた。
「それは光栄ですね」
「まあ俺は貴族が嫌いだが、奴は嫌いじゃねぇ。誰に対しても礼儀正しい奴だったからな」
どうやらゾーン・バルターとは知り合いで、嫌いな貴族の中でも例外的な存在の様だ。
「師匠。ガンテツさんは以前、王家の騎士団に武器をおろしてた凄腕の匠なんですよ」
「ふん。昔の話だ」
ベニイモの言葉に、ガンテツさんが不機嫌そうにそっぽを向く。
王家に武器をおろしていたんなら、貴族とも面識があるはず。
恐らくその当時に揉めて、貴族嫌いになったってところだろう。
「ま、お前さんレベルならこの辺りが妥当だな」
ガンテツさんがカウンターをガサゴソと漁る。
そして一本の剣を取り出して、俺に放り投げて来た。
「っと……」
それを受け止め、俺はまじまじと見つめる。
精巧な意匠の入った鞘に収まってる剣だ。
そして手にはずっしりとした重量感、
これってひょっとして――
「タロイモ達の剣と同じグラムズ製じゃ……」
「おう。少し重いが、お前さんの腕なら問題ないだろう」
「へへ、私達とお揃いですね」
「いやいやいやいや」
俺より金を持っているであろうイモ兄妹が、ダンジョンで自力で素材を集めて来て格安で作って貰ったのがグラムズ製の武器だ。
少々重いとはいえミスリルより硬度があるみたいだし、当然普通の金属製の武器より遥かに値が張るはず。
とてもじゃないが、俺にそんな物を買う金はないぞ。
「いやあの、今日は見学っていうか……ちょっと見に来ただけなんで。そんなにお金も持ってませんし」
「出世払いでいい。持ってけ」
「良かったですね。師匠」
出世払いって……
この人、俺が出世しなかったどうするつもりだろうか?
まあそれだけ俺に期待してくれてるって事かね。
なら、ここは有難く頂戴するとするか。
ダンジョンでレベル上げするのにも、武器は強い方が有利だからな。
それにレベルを上げてれば素材でお金は手に入る訳だし、そのうち返す事も出来るだろう。
「分かりました。有難く使わせて貰います」
「おう、期待してるぞ」
この後、店の中に陳列されている武器を少し眺めてから俺達は店を後にした。
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