第51話 収納ならば、お任せください


 貸し出ししていないトランクルームを総て結合させた。貸出し中のトランクルームは、加えていない。いや、加えられなかった。契約が生きているんだろう。

それでも、なんとかなるだろう。トランクルームの入り口は下層の階段に続く洞窟の入り口をすっぽりと覆っている。 


トランクルーム内にあった太郎が個人的に収納していたものは、総て外に排出させた。そのままで排出させる事と、パッキングする事ができるので、パッキングした状態でだ。太郎自身、あまりものを詰める方でもなかったので、たいした量はない。日常遣いのもの、実験圃場から採取したキノコやお弁当、お菓子などぐらいだ。


「白金、魔物って一応生き物だよな」

「はい、かなり強力な生命力ですが」

砂虫などを蹴散らしながら、白金が答える。


「よし。入り口の部屋だけ通常で、他の部分は真空設定だ。で、最強で乾燥もさせてしまえ。できるか判らんが、温度設定は可能な限り下げる」

トランクルーム内の環境設定は、設定したいと念じれば設定ボードが目の前に現れる。そのボード操作で環境設定をすることができる。このボードは所有者もしくは賃借人にのみ見ることが出来る。


下層から上がってきた最初の魔物がトランクルームに辿り着いた。しばらくして、ブオンっと音を立てて魔晶石へと変わったのが判った。

(いけそうだ)


次から次へと魔物がトランクルームに取り込まれていく。洞窟の入り口からは、下から上がってくる魔物達がぼんやりと見えている。彼等が洞窟から外へ出ようとすると、そのままトランクルームに取り込まれて消えていく。不思議な光景だ。

魔物達は疑問にも思わず、次々とトランクルームへと進んでいく。


 全室を稼働するなど今まで一度もしたことはない。だが、白金が何も言わないのであれば可能なのだろう。

太郎は結合した部屋の中にある、環境に耐えられず死んだ魔物の魔晶石やドロップ品を次々に自分の居室である滞在型トランクルームの中へ移動させていった。ここだけは常に別室の扱いになっている。魔晶石を移動させるのは、後から這い上がってくる魔物達がトランクルームに入るのを妨げないためにだ。


 魔晶石やドロップ品が詰まってきた。トランクルーム内で魔物を処分しているというのも影響があるのか、着々と魔晶石が溜まるだけでなくレベルも上がり、部屋数が増えた。その部屋を魔物を入れている部屋に結合させる。魔晶石やドロップ品は滞在型トランクルームに詰まってきた。いざというときに逃げ込めるように、少しゆとりを持っておきたい。そこで試しに支店の作業場などに詰め込むよう意識すると、そちらの方にも詰め込めるようだ。支店もいざとなるとトランクルーム扱いなのか? それでも、カウンターのある受付の部屋には詰め込むことは無理らしく、作業所や休憩室だけのようだ。レベルが上がり、もう一部屋増えた。これは魔晶石やドロップ品の収納にあてた。トランクルームのレベルは、物を詰めるだけでなく、どれだけ使用するか、どのように使用するかでも反応してレベルが上がるようだ。だが、この異常な上がり方は、生きた魔物をトランクルームで処分しているところが大きいかも知れない。


細かな動作、細かな設定、一つ残らず魔物を捕らえるために細心の注意を払う。吸血鬼の魔晶石は質が良いと言っていた。確かに、それが多くなるほどレベルが上がりやすくなっている気がする。そう考えた方が、落ち着く。


数など数えていないが、一体でも多くトランクルームで確実に収納するため、魔晶石は効率よく詰めていく。太郎は洞窟の入り口で、トランクルームの作業に集中していた。こんなにトランクルームの中身にまで干渉できるとは、考えてもいなかった。


ギルドに連絡し、戻ってきたシルヴァとやり取りをしたのは白金だ。現状を伝え、シルヴァが太郎の護衛に変わった。


白金が

「彼女を捕まえにいきます。シルヴァ、太郎の護衛を。後を頼みます」

そう言って、彼女を追っていったからだ。シルヴァからダリアの話を聞いた。そこから、この事態を起こしたダリアを捕まえるべきだと判断したのだろう。


シルヴァに行かせるよりも自分が言った方が良いと判断したのは、自身が太郎のスキルのアシスタントだからだ。時間的に見てシルヴァでは逃げられてしまうだろう。自分が行った方が確実だと。

だが、シルヴァ一人では太郎の護衛は心許ない。白金はギルドにいるクロークにも呼びかけた。


 シルヴァからの報告に騒然とするギルド内で、シルヴァからの話を伝えた後にクロークは、

「呼ばれましたので、ダンジョンに行ってきます」

そう一言言い残して、ギルド本店から支店を通り抜けて、ダンジョンに来ていた。店員であるクロークも店から店へ渡ることが出来る。店員ならではということか。


何事かと彼を追ったギルド職員は、ギルド店から突如クロークが姿を消したことに戸惑った。

ギルドは緊急招集を行い、かのダンジョンへと探索者を派遣する手続きを急いでいた。


砂漠の魔物に上層からの魔物が混ざりだした。魔香石の匂いに釣られてきたのだろう。

(そう言えば、この階層までは虫だよな)

太郎は、何もしていないように見えても、トランクルームの作業はしているので他のことはあまりできない。大型の魔物が入ってくるようなら、部屋を縦に重ねてみたり、寒いのが問題ない魔物には温度を上げてみたりと色々と操作をしている。見えているわけではなく、感覚的に中が判るのだ。また、トランクルーム内は鑑定もある程度可能なようで、しぶとい個体は弱点を見出して、できるだけ対応している。そうはいっても環境設定を変えるだけしか出来ないが。だが、段々ルーチンワーク化してきたので、余所に多少は意識を向けられるようになってきた。


一つ思いつき、近くに置いてある荷物の中のキノコを開いた。それを、クロークやシルヴァが対峙している魔物達に適当に投げつけた。それから、適当に辺りにも投げつけた。

魔物達に当たったり、当たらなかったりパフン、パフンとキノコ達が胞子をまき散らしていく。なんとなく、魔物達がキノコを嫌がるようなそぶりが見えた気がする。また、動きが少し鈍くなった気がする。それを逃さず、シルヴァやクロークが魔物達を屠っていく。

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