第49話 トラブルは、俺の仕事ではありません
あの後、クレナータから聞いた話だ。
シルヴァの母親は小さな商店の雇われ店長として働いていた。彼は子供の頃から母親の店の手伝いをしていた。それもあってか、長じてシルヴァはその街でも大きな商会に勤めていたという。
「母親が死んで、ショックだったのか。その後はまるで人が変わったみたいになってね。勤勉で穏やかな子だったんですがね。仕事も責任ある立場になっていたし、急に辞めるといいだして。周りも引き留めたんですが、強引に辞めていきました。手がけていた仕事や、取引先との契約、みんな放ってしまって。あんな子じゃなかったんですがね。あの責任感の塊みたいな子が、本当に別人のようでしたよ」
彼が勤めていた商会で話を聞くと、そう言われたという。その時点で何らかの影響を受けていたのではないかとクレナータは付け加えた。それが何かは判らないが。
帰り道、白金に「商会通りの件」というのを聞いてみた。
「商会通りで捕り物があったと耳にしました。かなり周到に囲んで領兵による一斉検挙だったということです。検挙されたのは、オペリレ商会ということで。検挙された理由は、グネトフィータからの密輸ということだったらしいのですが。どうにもそれだけではないという噂です」
「へえ、俺は知らなかったな。そんな話があったんだ」
「あまり知られていないと思います。多くの領兵で取り囲んだ派手なものではなかったようですから。結界陣を張って封じ込め、夜間に秘密裏に行われたそうです。それに現在、箝口令も引かれていて、あまり知られていないはずです」
「箝口令、で、お前が何故知っているんだ? 」
「アシスタントですから」
にっこりと笑う白金に、アシスタントって何、とツッコみたい太郎だった。
責任ある立場の人間から、近日中にシルヴァへの聞き取り調査を打診された。現在、シルヴァはダンジョンにいるため、そこから戻らなければならない。それでは余裕を見て4日後に、という話になった。
別に断るような事でもないし、家の話も聞けるなら、意味もあるだろうと考えていた。
さて、シルヴァがダンジョンから出てくるのに護衛が必要だとして、探索ギルドで依頼をかけた。金級の2パーティは出払っていたので、ドゥプレクスステラという銀級のパーティが引き受けてくれることになった。二人組のパーティだ。
彼等は青艶砂虫の依頼をよく受けていて、頻繁に多様ダンジョンに行っているという。また、シルヴァとも顔なじみだという話だ。
「今のシルヴァの腕なら、オレ達二人だけでも問題なくあのダンジョンから戻れる」
という話だ。どうも、前にシルヴァが言っていた手ほどきをしているという探索者は、彼等だったらしい。では、ということでお願いをした。
話が決まったので、シルヴァに連絡するため太郎はダンジョン支店に顔を出した。話をするのは、早いほうが良いだろうと思ったからだ。
店には客もいなかったが、シルヴァの姿もない。外に出てみると、店の外で剣の素振りをしているシルヴァを見つけた。客が居ない時は、この頃店先で素振りなどをしているらしい。
「前にも話したけど筋がいいから、なにかスキルがあるんじゃないかと言われたんだ。今度、鑑定スキル持ちに見てもらえって。スキルがあるようなら、それに合わせて修行した方が良いって。
鑑定料っていくらぐらいなのかな」
先ほどシルヴァの護衛を依頼したドゥプレクスステラのうちの一人、ルシフェロがシルヴァに剣術の手ほどきをしているという。
ダンジョンの中に居るのだから、自衛するためにある程度戦えた方が良いだろうと始めたらしい。明るく脳天気に話すその姿をみていると、最初に会った時の暗く荒んだシルヴァとは全く別人のように感じる。
「おう。俺が鑑定持ってるから、見てやるよ。料金は要らない。店員特典で無料だ」
と言って、シルヴァを鑑定した。
「はあ」
奇声をあげた太郎はしばらくフリーズした。開いた口が塞がっていない。
「どうした? 」
「嘘…」
鑑定結果
名前:ブレディア・シルヴァ
年齢:20歳
職業:聖者 邪神を滅せし者
スキル:回復 火 水 風 土 剣術:レベル3
固有スキル:封印の剣 破邪の剣
ナンナノコレ、と鑑定結果を二度見した。
「どうした、なんか変なのでもあったのか? 」
心配そうにシルヴァが太郎の顔色を伺うが、直ぐには反応できなかった。
「お前、
取り敢えず、そう口にした。本心その一ではあった。
職業にしても固有スキルにしても、これは言うべきなのだろうか? 悩んでしまった。
「剣術はあるみたいだ。レベル3だって。で、ちょっと気に掛かる結果がでた。
あー、で、君は他の人に鑑定を頼んではいけない」
「なにか不味いのか」
「わからん。が、多分不味い。後で調べてから話すから。うん。まあ、大丈夫だよ、な、きっと」
太郎は目を背けて、シルヴァの目を見ることができなかった。
(白金に相談案件だ。なんなんだよ、聖者ってのは単語は知ってるけど、邪神を滅せし者って。過去形? なのかな。これからなら、滅する者になるよな。え、どっち? シルヴァってホント、なんなんだ。オレ、こいつに関わって良かったの? オレ、また何かに巻き込まれちゃってるの? )
何か、見てはいけないモノを見て、知ってはいけないモノを知ってしまった気がした。全力で知らないふりをしたい。
「ああ、それでな。話があってきたんだ」
とりあえず、話をそらそうと太郎がそう口にしたとき、後ろから声がした。
「お前。なんでこんな処にいるんだ」
そちらに背を向けている太郎は判らなかったが、その声の主を見ているシルヴァの顔色が変わった。
「貴方が、何故ここに? 」
振り向くと、そこに立っていたのはハイブリダ・ダリア、シルヴァの母の知り合いと名乗った女だった。
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