第31話 1日レンタルのモニター

 太郎がギルドに戻って窓口に座っていると、白金がやって来た。


「タロウ、面白いことを考えましたね」


白金は二人っきりでなければタロウと呼ぶようにしている。そう太郎がお願いしたからだ。太郎はここに来てから髪を染めるのと髭をはやすのも止めている。今は叔父と甥という設定にはしていない。


それでもニルにおっちゃん呼ばわりされて、何気に気にしている。相手は小さい子だ。その子から見ればおっちゃんになるのも理解できないわけでは無いが、ないのだが。ビミョウなお年頃だ。


「ああ、宣伝も兼ねてみんなで沢山稼いで来てくれるといいんだがな」


「あのニルは、薬師ギルドでも中々良い評判のようです。仕事が丁寧だという話です」


「そうなのか。そうみえないがな。彼奴等が上手くいくようなら、薬師ギルドにもレンタルルームの声をかけてみようか。薬師ギルドは良いところだからな」

太郎はそう言って笑った。


「それからレベルが8に上がりました。賃貸収納室トランクルームを借りているパーティが頑張っているようですね」

「なんか個人情報が筒抜けのような気がして申し訳ないな」


「実際に何をいれたのかまで判るわけではないので、気にしなくてもよいのではないですか」

「まあな」


そんなやり取りをしていると、ニルと連れだってセピウムがこちらへ向かってくるのが目に入った。探索ギルドの採取買取窓口で手続きが終わってから来たようだ。


1日レンタルの窓口は太郎の所だが、お金のやり取りは通常の窓口になる。二人がこちらに来るのを見て、手続きが煩雑になっているかもしれない、少し考えた方が良いかと思った。


「よう、お帰り」

太郎が彼らに向かって手を上げて挨拶すると、二人は嬉しそうに駆け寄ってきたが、近くまで来ると彼の側にいる白金をみて少し戸惑った。


「ああ、こいつは白金って名前でオレの共同経営者だ。これからも会うことがあると思うから」

「白金です。よろしく」


にこやかに笑った美少年に、子供二人もちょっと見惚れていた。差し出された手に気がついて子供達は慌てて手を服で拭いて握手した。そう、この国には挨拶で握手をするという習慣があった。


美少年は誰に対しても無敵だなと太郎が改めて思っていたのは言うまでも無い。獣族からみても美少年なんだなあ、とくだらないことが頭を過った。


「タロウさん、今日の収入はいつもより良かったです。今日はニルが薬草を採取して、僕は角ウサギ中心に狩りをしたんです。いつもより沢山とれました。ありがとうございます。1日レンタルの正規料金を払っても十分な収入になります」


セピルムが丁寧にお礼を言ってきた。

「良かったな。でも、収穫が沢山あったのは、お前らが頑張ったからだろう」


「あの収納も凄いです。入れた時のままに状態が保持されてるなんて。時間停止の能力があるんですか」


「いえ、品質保持能力です。時間は停止していませんが、お預かりした状態をよりよく維持できるんです。

それに設定さえキチンとできれば、乾燥した方がよい品物は乾燥させることも可能ですし、冷蔵・冷凍することも可能です。よろしければ設定の仕方をお教えしますよ」


白金がにこやかに答えたので、ちょっと二人はびっくりしたようだ。


それで明日の朝、1日レンタルの手続きをする時に、設定の仕方も教えてもらうことになった。


「まあ、何にせよ、頑張って稼いで、1日レンタルは使いやすいってみんなに宣伝してくれよな。期待してるぜ」

「まかせといて」

二人は元気よくギルドを後にした。


「白金、オレはトランクルームの品質保持の機能については聞いてないんだが」

「はい。レベル8になって機能が追加されました」

「オレにも後で使い方教えてくれ」


トランクルームは預かる荷物によって、その対応を細かくしてくれるようになったらしい。本場?のトランクルームも預ける荷物によって空調管理などをしている所もあるそうだから、異世界も負けていられないのかもしれない。太郎がアシスタントを選択したことで、新しい使用方法などは白金経由で知ることになる設定になっている。


 一週間もしないうちに、1日レンタルは思わぬ所で有名になった。ニル達を脅していた連中が捕まったのだ。


太郎に言われた通りに、裏通りで脅された時に1日レンタルの鍵を渡したという。鍵をギルドに渡せば今日の自分たちの成果品を受け取ることができると言ったのだ。


そこで、当たり前だがギルドで他人の収納物を強奪しようとした罪で捕まった。成る程自衛のために1日レンタルを使うのもアリなのではという人達が出てきた。表面上は平和そうに見えたんだが、裏では色々とあるのだろうかとその話を聞いて太郎は思ったが。


ニル達に近い年代の子達が、グループでデポジットカードを作り、1日レンタルを借りてみようという話になったという。デポジットカードは皆で分担して1枚分を支払い、手数料を引いた後の金額を清算して、自分で稼いだ分はその場で引き出せばいいだろうとなったらしい。


それを聞いて、ギルドの採取買取窓口では手続きが面倒くさくなりそうだと、クロークを派遣して作業をさせることにした。ついでに、デポジットカードに紐付けした簡単な手書きの個人カードを作って、個人の収入の入出金がわかるようにもした。後から、使い込まれたかどうかで揉めることはないようにと提案したものだ。


1日レンタル利用者は採取買い取りの受付窓口に別口を作ってもらい、そこで清算こもごもの手続きをするようにした。クロークの受け持つ窓口で、1日レンタルの予約と解約、清算などをまとめて行えるようにと。長期レンタルに関しては、太郎がそのまま貸倉庫屋の窓口で受付をしている。


加えて賃貸収納室トランクルームの使い方については、ニル達がレクチャーを請け負った。白金仕込みの収穫物によって保存状態を変えられる設定方法などを伝授したのだ。

そうなれば質の良い状態での納品につながり、ギルドでの買取額が高めになったということで、採取組にとって1日レンタルは使えるぞと徐々に評判になってきたらしい。


特に獣や魔物はそのまま冷蔵や冷凍ができることで、ギルドでまとめて良い状態で解体できると評判になった。一つ一つは小口であっても、ちりも積もれば山となる。1日レンタルの契約が少しずつ 増えてきた。

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