第10話 女神像を運ぶお仕事 2

「明日、出発したいが大丈夫だろうか。

君に個人で準備してほしいものはココに書き出した。場合によっては食料なども自分持ちなのだが、今回は急な依頼ということもあるし、こちらで用意するので心配しなくて良い。

往復ともに私の方で十分フォローするので安心して欲しい」

「ありがとうございます。それでは明日、出発時間前にここに来ますのでよろしくおねがいします」


 10日ほどかかる辺境伯領は、途中何度か野宿になるらしい。そのため野宿できる個人装備の準備が必要だと言われた。


寝るためや防寒具としてのマント、個人の食器などを用意することになった。宿屋に泊まっても基本はゴロ寝のようなので、下に敷くマットみたいなものがあるといいなと太郎は道具屋などをみて回った。


荷物はトランクルームに入れることなく大きめの背負カバンを買ってそこにまとめた。荷物は馬車でも運んでもらえるという話だし、女神像がギリギリ入って他は無理だ、という形にしたかったせいもある。


収納量が多いと目をつけられかねないと考えたからだ。入れられなかった人がいたのだから、そのくらいはした方がよいだろうと判断した。


食事は向こう持ちとは言われたが、何かあった時の予備にとドライフルーツや堅く焼き締めたビスコッティなどを買っておいた。



 商隊はそれほど大規模なものではなく、馬車2台分で、護衛が6人と小規模なものだ。馬車はゴーレム馬で護衛の4人が馬に乗り、2台の馬車のそれぞれ横に着けている。残りの2人は馬車の中で、アルディシア氏と太郎と一緒だった。馬車はサスペンションがしっかりしているのかクッション性もよかった。街道も整備されているようだし。


もともと乗り物酔はしないほうなので具合が悪くなることもなく、この街道沿いは安全性が高いと言われていたとおり、問題なく過ごしていた。


 明日には辺境伯領に着くと言われた晩は、街道沿いの宿泊地(といっても街道脇に空き地がある場所で宿屋はないのだが)で過ごすこととなった。宿泊地には結界石が置かれていて、隣接する森林から魔物や獣が襲ってくることはないという。その宿泊地からは街道は二手に分かれていた。


「この2本の街道はどちらも辺境伯領へ続くのですか?」

「今まで来た道を道なりにいく街道は辺境伯領へ続いてるよ。あとこっちの曲がる道は山を大きく迂回して隣国へと続いてるんだ。

隣国とは同盟関係を結んでいて、辺境伯領では色々と交易をしているからね」


「じゃあ、ユセンは隣国産の王都では見られないような珍しいものも売っているんですか。

お土産買ってこうかな。私は温泉と美味しい料理が楽しみだったんですけど、楽しみが増えました」

「お、彼女へのお土産か」

「違いますよ、お得意さんのおばちゃんとかギルドのお世話になっている受付さんとかですよ。彼女がいるほど甲斐性はないです」

「受付嬢は、可愛いんだろ」


太郎は護衛の人たちと笑いながら話をしていた。移動の間、護衛の人たちとも色々な話を聞いて随分と仲良くなった。


護衛の人たちは商会に直接雇われているわけではなく、辺境伯領の傭兵ギルドに所属していて依頼を受けて同行しているという。今回が初めてというわけではなく、前々からアルディシア商会の依頼を受けていて半ば専属的な扱いにはなっているらしい。傭兵ギルドは護衛や警護など基本は人相手に応対している仕事だと教えてくれた。


自分達もこの辺の街道筋に出現するぐらいの魔物は対応できるが、魔物相手は探索者や狩人の方が上手だという。彼らは探索ギルドに所属していてダンジョンを中心に仕事をしているのが探索者、森などの魔獣や獣を相手にしているのが狩人だという話だ。


王都に近い場所などは比較的安全だが、場所によっては魔の森とよばれるぐらい魔物たちが跋扈する地域もあるので、気をつけたほうが良いと言われた。


「私、腕っ節はからきしでして。それにポーターですしね。あんまり魔の森とかダンジョンとかに行く機会はない気はします」

「いや、中には騙されてダンジョンで荷運びさせられる場合もあるらしいから、気をつけたほうが良いぞ。

お前さんは少しぼうッとしているところがあるから、そういうのに引っかかるなよ」


物騒な依頼もあるらしい。極力商業ギルド以外の依頼は受けないことにしたほうが良いかもしれない。


「イチローさん。明日は、日中に領都につく。そのまま神殿に直に向かう。そこで女神像を設置してもらうことになるので、よろしく頼む」


アルディシア氏がそう告げてきた。そう言った彼の顔色が心持ち悪い気がした。


アルディシア氏は先ほど商会と神殿へ連絡をすると言っていたのでそのせいだろうか。この世界に携帯電話みたいなものはないらしいが、魔道具で決めてある相手とは簡単なやり取りはできるらしい。何かあったのかと太郎は訝しんだが、余計なことに首を突っ込む気はなかった。


 翌日早くに立ち、昼過ぎに領都ユセンに着き、そのままの足で神殿へと向かうことになった。荷物を積んだ1台の馬車と護衛の人達はそのままアルディシア商会へと向かったために城門で別れた。

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