王城にて 1

 王城の一角では太郎の動向について情報を収集していた。


収納持ちは特大サイズでなくてもそれなりの大きさがあれば有用である。奴隷契約でなくても、こちらの意のままに望む仕事をしてもらうことは契約書を使えば簡単にできる。


この5ヶ月の働きぶりには報告書が上がってきたが、残念ながらサイズに関してはそれほど期待はできないようだと報告されていた。今の所、特に気になるような事柄は報告されていなかった。


ポーターの仕事ぶりから、トランクルームというスキルはやはり収納と同系列のスキルとみなして良さそうだという結論になった。


当初の予定通り国外逃亡の阻止と王の命令については従うという事項をつけ加えて契約書を完成させることが決定された。他国に逃亡された場合、勇者召喚について情報が漏れる可能性は否定できない。それは是が非でも阻止しなければならない。


忌々しい魔族共にこれ以上異世界人を奪われるわけにはいかない。


本人が口にしなくとも彼の職業欄には巻き込まれた異世界人とでるため、鑑定持ちや魔道具を使って彼をチェックすれば、容易にわかりうることだ。他国に出ればその危険性が増す。


それに異世界人ということは、この国にとって有益な情報や技術を提示できる可能性がある。文化の差異に基づく違いによって新しい発想も生まれることは知られている。


そうした有益な情報や技術は召喚者側である国が搾取すべき事項である。こうしたことは生活が落ち着かなければ、動かないだろうとも予想された。


勇者たちの要求を見れば、魔法がない世界のようだが我々よりも便利な生活をしている面もあるようだ。彼がなんらかの技術や知識を持ち、自分の生活を良くするために再現しようと行動すれば、監視があるのですぐに判るだろう。


その一方で、その才を持たないハズレの可能性も否定できない。


今回の勇者達は、残念なことに知識などは多少あるものの、再現できる技術は持っていなかった。その知識もかなり半端なものが多い。


それでも発想の違いによる新たな発見は今後期待できるだろう。


それよりも、今は我々の本願である魔王を打ち倒す方に邁進してほしい。


今までの迷い人の事例を鑑みれば、人によって当たり外れが大きいことは判っている。それもあって、城下に下した。


使えないならそのまま自分自身で糊口を凌げば良いし、使えるようならば上手く利用すれば良いと。


平民と同じ生活を送るだけで、その生活のギャップで何らかの行動を起こすことをも促進できよう。


だが、未だ彼の周囲でとりたてて変わった事などは認識されていなかった。王都の庶民の暮らしに馴染んでいるようだ。


下賤の出だったのであろうか。

ギルドでの仕事は真面目だが平凡だという。


今のところ、あまり期待できる者ではなさそうだ。


とりあえずは王都の商業ギルドで飼い殺しになっていてくれれば問題はないだろうとの判断がくだされている。



 そこへ太郎がブリタニカ辺境伯領までの仕事を引き受けたとの情報が入った。ブリタニカ辺境伯は中立派ではあるが癖の強い人物であり、今の時点では勇者召喚については知られたくない人物の1人でもあった。外れかもしれないが、イチローを辺境伯に確保させるわけにもいかない。


それを受けて神殿契約はすぐに成された。また王城側は辺境伯領にいる草に連絡をとり動向を報告するように命を下した。ブリタニカ辺境伯に囲われるようならば、始末しても良いと伝えた。


ブリタニカ辺境伯領からの報告も当初は特筆すべきものは見当たらないということであった。また、順当にブリタニカ辺境伯領から王都への帰途についたことも報告された。


 だが、その後もたらされた情報で、王城ではイチローの扱いを変える事が検討される事になる。

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