ユミコ・シャルロッテ
『クー・シー』がライトを照らした先に座り込んでいたのは、ハーフのような顔立ちの美しい女性だった。見た目は植村たちと同い年のように若く見えたが、着ている大人っぽいスーツが一気に印象を年上に変えていた。
よくよく観察すると体中に傷を負って血を流し、両足は
「大丈夫ですか!?」
「あなたたちは……?」
「俺たちは、冒険者ギルド『アルゴナウタイ』の者です。協会からの依頼を受けて、この地下収容所へ調査に来ました」
「協会の冒険者……そうだったの」
こちらも色々と聞きたいことはあったが、まずは治療が先決だ。いくつか回復の
「とりあえず、これを飲んでください」
俺は携帯していた鞄から液体の瓶を取り出すと、彼女に手渡す。
「これは……回復系の
「ええ、そうです。協会から配布された物なので、遠慮なさらず」
俺の言葉に、彼女は意を決して受け取った液体を一気に飲み干す。
本当は秘宝などではなく、不夜城にある売店の新アイテム『ハイポーション』。その名の通り『ポーション』の上位互換で、その回復量も大幅に強化されている。その分、値段も張るが背に腹は変えられない。
と、このような詳しい事情を説明してる暇はない。手っ取り早く相手が信用してくれそうな嘘を並べてしまったが、素直に飲んでくれて良かった。
すると、みるみるうちに彼女の脚色が元に戻っていく。何をされてああなっていたのかは知らないが、『ハイポーション』なら少々重い外傷までも即座に治してしまうようだ。下手な低レベルの秘宝よりも、回復アイテムとしては優秀かもしれない。
「足が、動く……ありがとうございます!」
立ち上がることのできた彼女に喜んでいる俺たちをよそに、レイジだけは冷静に質問を始める。
「では、聞かせてもらおうか。アンタは一体、何者で……ここで、何があったのかを」
「そ……そうですね、自己紹介が遅れました。私の名前は、ユミコ・シャルロッテ。ICPOの捜査官です」
「「「!!」」」
自己紹介と共に彼女は、自身の顔写真の立体映像が浮かび上がる警察手帳を俺たちに見せた。
その事実を聞いて、真っ先に身を乗り出したのはヒカルだ。
「それじゃ、お父さ……“月森オボロ”の同僚。と、いうことですか?」
「月森課長は、私の上司ですが……私たちのことを、知っていたのですか?」
「えぇ、まぁ……それより、その上司の方はどこに!?」
「それが……魔女と対峙して、私を逃してくれたんです。でも逃げてる途中で、後ろから敵の魔法に当たってしまい。それでも何とか這いつくばって安全な場所まで逃げてきましたが、限界を迎えてしまったんです」
記憶が蘇ってきたのか、わなわなと震え始めるシャルロッテさん。それを聞いて俺たちが感じたことを、リナが代表して言葉にしてくれた。
「て、ことは……やっぱり、“深淵の魔女”は脱獄してたんだ。でも、こんなとこにいても生き残ってるってことは。もしかして、魔女はまだ奥にいる?」
「ありえないことじゃないな。もしかしたら、月森の父親が魔女の拘束に成功したのか……それとも」
レイジの言葉を聞いて居ても立っても居られなくなったのか、ヒカルが急に奥へ向かって駆け出して行ってしまう。父親の安否を確かめに向かったのだろう。
「待って、ヒカル!くそっ、追うぞ!!」
「いや。待て!」
慌ててヒカルの後を追おうとした俺を、レイジが引き止めてくる。
「なんだよ!もし、まだ魔女がいたら……」
「おかしいと思わないのか?」
「おかしい?何が?」
「逃げるところを魔女に背後から撃たれ、ここまで動けない足で這いつくばってきたんだったな?キミは」
急にレイジから尋ねられ、シャルロッテさんは「……はい。そうです」と答える。
「だとすると、綺麗すぎるな」
「何が……でしょうか?」
「奥に続く、ここの床さ。さっきの怪我で這いつくばって来たというのなら、多少の血痕などの痕跡が残されてるはずだろう。それが、全く見受けられない」
「わ……私が、嘘をついているとでも?」
「アンタが本物の捜査官だというなら、自作自演で怪我した演技をする必要はなんだ?納得いく説明をしてもらおうか」
「ま、待って。あなたたちは、冒険者なんですよね?なら【鑑定】でも何でも使って、私のステータスを調べてください!嘘じゃないことが、分かるはずよ!!」
困惑する中、恐る恐る俺は【鑑定】rank100をシャルロッテさんに向けて使用してみると……確かに、それは“ユミコ・シャルロッテ”さんのデータだった。
「レイジ……彼女のステータスに、おかしいところはなかったぞ」
「そうか……俺は、ここに来るに当たって事前に色々と調べてきた。“深淵の魔女”が使える魔法の一覧を、もちろん全てを網羅してるものは見つからなかったが。それでも、十分な予習にはなったよ」
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