忍頂寺サイゾウ

「弟子だった!?」



「ああ、そうだ。蛇島オロチは、俺のだった」




 敵の追跡も落ち着き、車内ではサイゾウさんが“蛇島オロチ”との過去をつらつらと俺たちに語ってくれていた。彼がサイゾウさんと師弟関係にあったと知り、俺たちが動揺してる中で一角くんが尋ねる。




「なぜ、そんな人が賞金稼ぎなんかに?」



「奴は強さを求めて、手にしてしまったんだ。を」



「妖刀……秘宝アーティファクトですか?」



「ああ。『妖刀ムラマサ』……レベル5の秘宝で、魔剣や妖刀の類の中でも全てが群を抜いている。“強さ”も“呪い”も、な」




 妖刀、魔剣……これまで、俺も実際に何度かお目にかかったことはある。マコトの持つ妖刀のように使い手に友好的なものもあれば、『ダインスレイヴ』のように使い手を闇に堕としてしまうようなものまで。おそらく、『妖刀ムラマサ』は後者の類。




「妖刀に呑まれてしまった……?」



「妖刀ムラマサは、殺した者の力を奪う。力を欲したオロチは、手始めに自分の兄弟子たちを皆殺しにした」



「そ、それって……」



「そうだ……私は、そこで全ての教え子を失った。正確には、たった一人・オロチだけを残して」




 兄弟子たちの力を奪ったわけか。なるほど、それで……あんなに、怒りを露わにしていたんだ。


 しかし、今はその怒りを押し殺して淡々とサイゾウさんは話を続けてくれた。




「冒険者殺しの汚名を被った奴は、そのまま姿をくらませた……妖刀と共に。そこからずっと、俺は個人的に奴の動向を調査した。そして、ようやく『ウロボロス』という組織に辿り着いたというわけだ」



「蛇島オロチが創った、賞金稼ぎギルドですね」



「奴らは、ほとんどが訳アリの元冒だ。人目につかないよう、確実に標的を暗殺する。おかげで、『ウロボロス』に辿り着くまで10年以上の歳月を費やしてしまった」



「そういうことか。だから、公共機関を使った方が安全だと」



「とはいえ、油断はするなよ。奴らは統制の取れた集団じゃない、中には一般人も躊躇いなく巻き込むような狂った者もいるだろう。どんな移動手段を使おうと、危険なのは変わらん」



「了解です。そういえば、転送装置は?あれで直接、目的地に飛ぶことは出来ないんですか!?」




 一角くんが思いついたように博士に尋ねると、代わりに答えたのは読書中のアダムくんだった。




「無理だね。今の僕じゃ、あの距離が限界……もっと、知識を詰め込めていけば将来的には可能かもしれないけど。おまけに、ポンポンと【創造】できるものでもない」



「そうか……確かに。そんなことが出来たら、歩く秘宝製造機だもんな。ははっ」



「…………」




 軽い冗談にも無言で本を読み続ける彼に、一角くんは苦笑いを浮かべるしかなかった。


 そんな空気を破るかのように、急に倉内くんが喋り出す。




「駅に着いたら、俺は別行動したいと思ってるんですが……よろしいでしょうか?サイゾウさん」



「その理由は?」



「損傷したメカを修理したい。どのみち、あれが無ければ俺が同行したところで戦力にはならないと思うので」



「そんなに、すぐ直せるものなのか?」



「直せます。俺のユニークスキル【改修】を使えば」



「なるほど。修理系のユニーク持ちだったか……良いだろう。合流手段は?」



「修理の終わったロボットを使えば、すぐにでも」




 倉内くんの回答に納得したようにサイゾウさんが頷くと、一角くんが話に割り込んでいった。




「それって……ついでに、僕のパワードスーツも修理できたりしないかい?どのみち、列車の中では着装は出来ないだろうし。直せるというのなら、頼んでおきたいんだが」



「全然、構わないよ。ただ……キミの会社の技術を盗み見てしまうことにはなるかもしれないけど。それでも、良いというのなら」



「ははっ!修理代としては、安いものさ。むしろ、知識は共有してこそ互いのレベルが上がるというもの」



「ふっ、そうか。では、大事に預かっておくとしよう」




 その会話を聞き終わり、サイゾウは再び口を開いた。




「では、駅に到着次第で倉内は別行動。その間、護衛人数は減ることになる。総員、一層に気を引き締めていけ」



「「「了解!!!」」」



「……ところで、植村」




 突然、名前を呼ばれて俺は素っ頓狂な声をあげて返事をする。




「ふぁいっ!な、何でしょう?」



「さっきのこと、他言無用だからな」



「さっきのこと……蛇島オロチとの過去ですか?」



「そうだ。“忍頂寺テン”とは知り合いなんだろう?そして、“那須原ナギ”とも」




 やっぱりか。珍しい苗字だから、何か関係はあるかと思ったけど……でも、何でナギまで?




「は、はい。仲良くさせてもらってます、失礼ですが……サイゾウさんとは、どういったご関係なんですか?」



「テンは私の孫娘。そして、ナギも私の養子のようなものだ」




 うわぁ……なるほど。俺に当たりが強かった理由が分かってきたぞ。そりゃ可愛い孫娘に手を出してる男という先入観があれば、冷たくもするだろう。




「でも……なんで、ナギまで?」



「テンとナギ……二人の両親が、さっき言った兄弟子たち。つまり、“蛇島オロチ”は彼女たちにとって両親のかたきとなるわけだ。だが、そのことをあの子たちには話していない。憎しみや恨みを抱えて、生きて欲しくはなかったからな」



「……!」



「そして、これからも打ち明けるつもりはない。だから、決して……あの子たちに、さっきのことを話さないように。わかったな?」



「わ、わかりました……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る