荒川弁護士の疑問
荒川弁護士は書類を作成していて、ふと公判での松崎秋男の自信に満ちた表情を思い出した。自分が弁護士と知っても不敵の顔をしていた。何故そんなことが出来るのか。被害届を出したことは松崎に知られないようにしないといけない。この疑問を解くカギはどこにある?須藤さんに聞いた方がいいのか?直接かけても不審に思われるだけだな。及川さんに繋ぎを取ってもらおう。
荒川弁護士は及川に電話を掛けた。
『はい、及川です、何か問題でも?』
「いいえ、ちょっと松崎について引っかかることがありまして、須藤綾子に話を聞きたいんですが、私から話したいことがあると取り次いでもらえませんでしょうか?直接かけても警戒されると思うので」
『解りました。少々お待ちください』電話はいったん切れた。しばらくして及川からかかってきた。
『須藤さんに連絡したら、どうぞとのことでした。荒川さんが当社の顧問弁護士と言うことは話してありますから』
「ありがとうございました。では又」荒川弁護士は電話を切ると須藤綾子に電話を掛けた。
『はい』
「須藤様ですか、及川から連絡があったと思いますが
『そうですか、どんなことでしょうか?』
「先日裁判所の調停で対峙したのですが、私が弁護士と知っても動じなかったことが引っ掛かりまして」
『もしかして、私の保証人としての審査をしていないことを盾にしませんでしたか?柴田弘の書類は揃っていて保証人としては問題ないと』
「その通りです」
『それなら、知らないからそうしていられるんですよ』
「え?」
『保証人に無断で書類を揃えたことが、法に触れるとは思っていないということです。後保証人なりえない人を保証人として書いたということも同様。自署した人物を特定できればいいのですが』
「つまり、自分がしたことが法に触れるとは思っていないということですか?」
『そうです、松崎秋男は柴田の4人兄弟の第一子と結婚しています。ですから本来柴田の財産には権利がないのに、自分が家長と勘違いしていたことがありましたので。
柴田弘がそうゆうことに疎かったので、余計に助長していたようです』
「そうなんですね、なんとなく解ってきました。単に勘違いしているだけだということですね」
『借用書から誰の指紋が出るかですよね。それが確固たる証拠になるでしょう』
「その通りです。ありがとうございました。これで自信を持って事に当たれます。話は変わりますが、須藤様、被害届を出す気はありませんか?慰謝料とか。勝手に保証人にされたんですから、権利があると思いますが?」
『それはお断りします。柴田の一族と面と向かって関わりたくありません。協力は致しますので。その代わり事が終わったら、松崎夫婦と柴田弘がどうなったかを教えてください。それだけで十分です』
「解りました。無理にとは言いません。それではこれからもお電話することがあると思いますが、よろしくお願い致します」
『いつでもどうぞ、私で答えられることにはお答えします。失礼します』
そう言って電話は切れた。
荒川弁護士は自分の疑問がほどけていくことに気がついた。後は、松崎に悟られないように被害届を出して、調停の方は乗らりくらりとかわして時間稼ぎをすればいい。
それにしても、須藤綾子さんの洞察力はすごい。見習わなくては。そう呟くと
荒川弁護士は書類の作成に戻った。
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