第18話 最低の天才魔法使い


今日は魔法学が最後の授業だ。それもようやく終わり、オリビアは後片付けをしていた。あとはノートをカバンにしまえば帰れるのだが、見つからない。


「あれ?どこに置いちゃったかしら」


さっさと帰りたいのに、こういう時に限って物を失くす。1人、また1人と生徒が教室を出ていく。オリビアが最後の一人になった時、後ろから声をかけられた。


「オリビア」


振り向くと、ハヤトが立っていた。


「……はぁ」


昨日の今日で話したくなかった。オリビアは冷淡に返事をした。ハヤトの顔を見ないように、ノートを探す。


「これ、君のでしょ?机の上に置いてあったよ」


ハヤトがオリビアのノートを持っている。「あっ、…………どうも。どこの机にあったの?」


「僕の机」


それはおかしかった。オリビアは、ハヤトの近くに行っていない。


「盗ったわね」


「ごめん、2人きりになりたくて」


ハヤトは微笑んだまま、平然と言った。


「ちょうど良かったわ。心は決まりました。昨日の返事だけど、お断りします。ごめんなさい」


オリビアははっきりと言って、頭を下げた。


が、ハヤトは聞いているのか聞いていないのか、全く表情を変えずに何かを机に置いた。


「これ、見てくれる?」


オリビアは頭を上げた。


「…え?え、これ、さっきの授業で作ってた魔法薬?」


オリビアは出来るだけ誠実に断ったつもりだったが、見事なまでに流されて戸惑った。言われるがまま、魔法薬を手に取る。


「これ、何の薬?色が綺麗ね。こんなのまで作れるなんてね。で、それで?凄いでしょって話?」


またいつもの挑発かと思ったが、ハヤトは言った。


「今日、薬品棚の管理方法の授業だったろ。で、その後に魔法薬精製」


「ええ」


「薬品棚って、生徒が扱う物だから、そこまで危険な物は入ってないはずだよね」


「確かそうだったわね。先生も言ってたわ」


オリビアは不思議がった。何の話がしたいのだろう。


「僕の薬品棚に置いてある内の一つが、行動制御の薬品とすり替えられてたんだ。きっと、誰かがまた僕を陥れようとしたんだね」


「えっ………怖いわね。酷い事する人がいるのね…昨日の薬草泥棒の犯人と同じ人かしら」


「うん。飲んでたら大変な事になってたよ。まぁ、今回も僕にすぐ気付かれてる時点で、敵では無いけどね」


「…分かったけど、その話を私にしてどうするの?私、犯人じゃないわよ?」


「分かってるよ。そうじゃなくて……僕は思ったんだよ。これは、プレゼントだって」


オリビアは、だんだんと嫌な予感がしてきた。


「………それで?」


「気付かずに飲んでたら、確かに危険だよ。でも、気付いていれば何も問題無い。量を調節して、上手い具合に使えば、より強力な効果を発揮する。そうだな、例えば…好きな人に飲ませて部屋に連れ込むとか、そういう感じに使えたりね」


ハヤトがにっこりと笑う。


「……………帰ります」


魔法薬を机に置く。


「ねぇオリビア」


「嫌。絶対飲まないからね」


オリビアは急いでノートをカバンに詰め込む。慌てすぎて、上手く入らない。


「オリビア、ノート曲がっちゃうよ」


「うるさい!」


なんとか身支度を整えてハヤトの横を通り過ぎようとするも、腕を掴まれた。


「これさ、飲んでみてよ」


ハヤトはニヤリとして言った。


「やっぱり!嫌だってば!!」


オリビアが抵抗するも、ハヤトの力の方が強く逃れられない。


「やめてよ!」


「大丈夫だよ。毒じゃないし。さすがにこれを僕に飲ませようとした人も、毒を入れる程の勇気は無かったみたいだ」


「嫌!本当に無理!あなた、頭おかしいんじゃないの!」


「お願い、早く飲んでね」


「だ、誰か!……んぐっ!?」


ハヤトがオリビアの後頭部を押さえつけ、口に親指を入れてこじ開けた。隙間から薬を流し込む。


「はい、ごっくん」


「……っはぁ……はぁ……はぁ……っ!いやぁ!!」


オリビアは必死に抵抗して、ハヤトを遠ざけた。


「っ!やめなさいよ!」


「もう遅い。飲み込んじゃったね」


「はぁ……何してるの…?最低よ……」


オリビアは呆然とした。最悪。最低。なんで私がこんな目に遭わないといけないの。


途端に、オリビアの体に異変が起きる。


「っ!!?」


オリビアは胸を抑えた。息が苦しい。心臓がドキドキしている。体中が熱い。全身が脈打つようにドクンドクンと振動していた。


「……はぁ…っはぁ……」


「効いてる効いてる」


ハヤトが面白がっている。


「はぁ……ちょっと……待ってよ……これって、本当に、まずいんじゃない……?」


「大丈夫。ちゃんと先生にも確認してもらってるから。評価も、Aだったよ。何でこの薬品使ってるのか聞かれたけど、僕の成績に免じて大目に見て貰ったんだ」


「何が大丈夫……なの……」


オリビアの呼吸が荒くなる。体が言うことを聞かない。足が震える。力が入らなかった。オリビアは床にへたれこんだ。


頭がぼーっとする。視界がぐらつく。


ハヤトがオリビアを支えた。


「触らな……はあ……うぅ……はぁ……っ」


苦しそうにうずくまるオリビアを、ハヤトは横抱きに持ち上げた。


「やっ………」


「僕の部屋に、解毒剤があるんだ。こういう時の為に、いくつか用意してあるんだよ。一緒に取りに行こうね」


「さっ………最低…!!」


ハヤトは、嬉々としている。

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