第16話 返事は待って貰えない
「待って」
「何!」
オリビアはイライラと聞き返したが、ハヤトは真剣な顔でこちらを見ていた。そのまま数秒見つめ合う。
オリビアが困惑して目を泳がせ始めると、ハヤトがオリビアを引き寄せるようにして抱き締めてきた。突然の出来事にオリビアは固まってしまう。
「!?ちょ、ちょっと!離して!!何やってるの?こんな…」
「オリビア、好きだ」
突然の告白に、オリビアは言葉を失った。
「…………………えっ?」
「好きだ…………………」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、息ができない。心臓が激しく動いている。ハヤトは更に腕の力を強めた。
「ちょっと……くるし………一旦待っ…」
オリビアが苦しそうに呟くと、ようやくハヤトは力を緩めた。オリビアはハヤトから一旦距離を取ろうとするが、ハヤトは完全には離してくれなかった。オリビアの肩に手を置きじっと見つめてくる。
「……彼女さん、は?」
オリビアは疑問に思った。昨日図書館で揉めてたあれはなんだったのだ。
「別れたよ。元々好きじゃなかったけど、色々あってね」
「そ、そうなんだ……」
「ねぇ、オリビア……君は……?」
ハヤトの熱い視線から目を外し、オリビアは、考えた。本音を言うと嬉しかった。まだハヤトの事は謎だらけだし、からかわれると、腹が立つけど…ハヤトはいつも優しかった。自分の事を、応援してくれている。だから、言おうとした。
───”私も、好き”
だけど、迷いもあった。才能があって、周りの注目も集める憎きハヤトに、ここまで思い通りにさせるのも、なんだか自分のプライドが許さない。しかもこの人と付き合ったら、自分はずっと彼を羨み、自分と比べ続ける事になる。きっと劣等感でいっぱいの日々が待ち受けていることだろう。それに、私は耐えられる?だめだ。すぐに答えが出せない。
オリビアは言い淀んでいた。考えすぎて、気が付かなかった。ハッと顔を上げると、すぐ目の前まで顔が迫っていた。ハヤトが、自分の口元を見ている。
「っ!!」
とっさに避けようとしたが、遅かった。唇が触れ合う。柔らかい感触が伝わる。ハヤトにキスをされてしまった。
オリビアは目を大きく見開いたまま硬直した。数秒のち、我に返ってハヤトを突き飛ばす。
「ごめん、つい……」
「何やってるの!?」
オリビアは、驚きで震えた。
「なんなの、私まだ何も言ってないでしょ!?」
「ごめん、我慢できなくて……」
そう言いながら、ハヤトはまたオリビアを抱き寄せた。優しく包み込むような抱擁だが、逃す気はないようだ。
「オリビア、君の事が好きなんだ」
「わ、分かったけど、だからってそんないきなり…とりあえず離してよ。落ち着いて話しましょう」
「返事は………?」
ハヤトは、オリビアの言葉を無視して、顔を覗き込んだ。オリビアは、ハヤトが全く力を緩めないことに、逃げるのは無理だろうと諦めた。
「…じゃあ、言うわよ。正直、迷ってる。私はあなたを、ライバルだと思ってるから」
「…確かにそうだね」
「色々と優しくしてくれたのは嬉しかったわ。だけど、私…ハヤトといると自分がダメになる」
「え?どうして」
オリビアは、顔を暗くして言った。
「今日、見てたでしょ……皆に疑われるのも当然よね」
「……」
「今まで、あなたのこと…妬むわ恨むわで、態度が最悪だったもの、私。前は、こんなんじゃなかったのに…これ以上自分を嫌いになりたくないの。だから…」
「そこがいいんじゃないか」
「え……」
「僕のこと、妬んでても恨んでいてもいいから、付き合って欲しい」
ハヤトの予想外の返答に、オリビアは戸惑った。
「……いえ、私がよくないわ。まだ気持ちが追いついていないもの。少し時間を貰えないかしら……」
「無理だよ。待てない」
「そんな…じゃあ、申し訳ないけど、あなたとは付き合えないわ。ハヤトなら、もっとあなたを素直に認めて受け入れてくれる素敵な人がいくらでも…」
「嫌だ。僕はオリビアがいい」
そして、少しずつにじり寄ってくる。
「あっ……だったら、少しでいいから考えさせてよ」
「ねぇ」
オリビアが後ろに下がると、足がソファに当たってしまい、そのまま座ってしまった。ハヤトが覆い被さるようにオリビアを押し倒す形になる。
「きゃっ!!」
「君が好きだよ」
「分かったけど!私はまだ気持ちが追い付いてないって言ってるでしょ!こんな事するなら、やっぱりお断りします」
オリビアが声を張り上げると、ハヤトはようやく引き下がる───かと思うと、何故か嬉しそうにオリビアを見下ろした。
「やっぱり、怒ってると可愛いね」
「……!?」
オリビアはハヤトに呆れた。
「聞いてた?話」
「うん」
ハヤトはそう言いながらも、オリビアの顔に自分の顔を近付けていく。
「やめてって…………」
その時、ドアの向こうからこちらへ向かってくる、何人かの足音が聞こえてきた。
ハヤトが、仕方なさそうに離れた。
「あーあ、邪魔が入った」
「もう……ほんと、何考えて……」
オリビアはソファから立ち上がり、乱れてしまった髪を整えた。
ハヤトは、素知らぬ顔で空のコーヒーカップを手に持ち、入口に向かって歩いていた。ちょうど入れ替わるように、「あー喉乾いた!」と言いながら見知らぬ生徒たちが入ってくる。
「僕、行くよ。また明日」
そう言って、出て行った。ハヤトがいなくなってからも、オリビアはしばらくその場から動けずにいた。
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