嵐の予感③
男達の持っていたバックを手に取って開ける。中身には白い粉が透明な袋に封入されており、幾つも重ねて詰め込まれていた。
「あーこれ、地球原産の薬物や」
「ん? なんか違うの?」
「ワイらの職域外、つまりこれは警察のお仕事」
異星から持ち込まれた薬物の取り締まりは特異局の管轄だが、通常の違法薬物は法的な治安機関たる警察の業務となる。
「へー、そうなんだ」
「『へー』ってアンタ、この仕事何年目ですか?」
「うっさいなぁ。
「んで、結果がコレか」
吹き飛んだ首無し死体・
先程の説明通りこの件は警察の管轄。つまり、この惨状は反社を相手とした越権行為にあたる。
「う〜ん、どうする?」
「どうするって……逃げるしかないやろこんなん。バレたらまたババアに怒られんで」
「確かに」
そそくさと現場を離れよう、と促す相良。しかし何かに気がつき、ピタッと足を止める夏目。
「ほら、はよ行くでー」
「あー、ちょっと待って」
その視線の先には腰を抜かし身体を震わす少年。反社の男達と取り引きを行っていた小田と呼ばれる高校生。そんな彼の手元に落ちている封筒を、目にも止まらぬ早さで夏目は"受け取る"。
「少年、悪いことしたらダメ。罰としてコレはお姉さんが預かっておくから」
「えぇ…………」
奪った厚い封筒を後ろ姿と共にヒラヒラと掲げて揺らし、路地裏から遠ざかっていく。そんな彼女の横にいた男はそのあぶく銭を見ると、まるで悟ったように口を開いた。
「それパチンコに使う気やろ?」
「キッショ、なんで分かんだよ」
◇
春、それは出会いと別れの季節。学校近くの桜の木の前、切り揃えられたセミロングの髪、長袖の白いシャツに赤いネクタイ。ふくよかな丸みに花びらが落ちる。
「朝陽〜、こっちこっちー! これが例の桜!!」
「ほー、立派なもんやねぇ」
相良朝陽はゆっくりと木の根元へ近づき、その幹に手を当てながら上を向く。満開の桜は一面ピンク色に染まり、春風と共にその枝を揺らす。
うんうん、と朝陽の様子に満足し頷く。金本は少し誇らしげに説明を始めた。
「この木に埋められた死体。その霊魂が恋愛に纏る願い事をなんでも叶えてくれる、って実は昨日、噂で聞いたの」
「それはとんでもない信憑性やな。朝の早くから学校に来たかいがあったわ〜」
「む、そこは素直に信じてよ」
皮肉めいた返事に金本はむすっとした表情を見せる。不貞腐れる友人に「ふふっ」と口元を手首で隠しながら朝陽は質問した。
「ごめんごめん。それで? 金本は何をお願いするん?」
「んーー、そんな急に言われても特に無いなぁ。好きな人とかいないし」
「おらへんのかい!」
「だから代わりに朝陽が願いごとしてよ」
「え〜……まあええけど」
とりあえず桜に向かって「あの人に会えますように」と願っておく。しばらくして息をつくと、朝陽は愛おしそうに耳元の小さな髪飾りに手を当てた。
金本から内容を聞かれたけど「秘密」。そろそろホームルームの時間だよ。とはぐらかして朝陽は学校に向かった。
そして金本と朝陽がその場を後にしてから数分後。桜の根本、その地面が四方2m大にパカッと開かれた。突如現れた人工的な穴、そこから怪しげな男が二人顔を出す。
「マンバン、オレ達ってよぉ……実は神様?」
「ドレッド、殺し屋に転職届けはありません」
派手な大きめの服にドレッドヘアの男はうへぇ、と気の抜けた間抜け面をする。
その様子に隣の男は眉間に皺を寄せた。忍者のような格好にマンバンヘア、相方とは別の意味で奇抜な格好の男は計画に向け、活を入れる。
「いいですか? 今回はかなりの報酬が出る仕事です。気を引き締めてください」
「おうとも。前金で五千、一人殺るごとに更に五千。これを逃す手はあるめぇ」
「情報通りなら相手は相当の手練れ。ボスと合流次第、一気に叩きます。いいですね?」
「おーけーブラザー」
二人は密談を終えると扉を手に取り、ゆっくりと閉じてまた地面と同化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます