第九話 嵐の予感

嵐の予感①

 地球上で確認されている惑星人の数は三万を超える。そのほとんどの者たちは"変身"を行い、地球人の姿に扮して生活をしている。

 そして特異局は地球に移住してきた者達から定期的に情報を集め、友好関係を結んでいた。


「それでは皆さん、変身を解いてください」

「ご協力お願いしまーす」


 師人は後輩の清水を連れ、定例集会の場に来ていた。場所は時期によってまちまちだが、今回は市民センターの空き部屋を間借りし、周辺地域の惑星人に集まってもらった。


「清水、確認終わったか?」

「はいっす。代表の方、全員来られてます」

「おけ、それじゃあ始めるか」


 人種の違い、どころか種族の違う者達が途上惑星で生活をする。それは争いトラブルの種でしかない。事前に問題を解決し、予防するのも大事な仕事だ。


「……なるほど、一心教いっしんきょうですか」

「宗教団体は惑星人も勧誘するんすね〜」

「分かりました。コチラでも注意喚起しときます」


 三時間ほど経って落ち着いた頃、昼食を含めた休憩を挟む。集まってもらった惑星人達が食べている謎の物体が正直気になるが、あまりジロジロ見るのも失礼だな。と師人は手元に置いてある三重箱に視線を落とした。


「はぁ………」

「どうしたんすか先輩? 浮かない顔して」

「あ、ああ。実は最近、悩みの種が減ったと思ったらまた一つ増えてな」


 反省して控えるようになった奥村の時折感じる熱い視線、朝陽からの連日続く連絡アプローチ、そして消えてしまった七海の記憶。

 内容は伏せつつも、山積みの問題に師人は横に座る後輩にハハ、と小さな微笑みを見せた。


「ふーん、大変そうっすね」

「まったくだよ」

「……じゃ、じゃあ私が癒やしてあげますよ」

「ほう、どうやって?」


 清水はモジモジしながら両の手を絡め、チラッと視線を送る。手元のお弁当、そしてその横顔をジッと見つめて口を開いた。


「私が先輩のお家に行って、お世話してあげるっす」 

 清水は赤面しながら提案した。周囲もその様子に気が付き始め、なんだなんだ……? と意識を二人に向ける。


「……あ〜、家はちょっと」

「え? あ、もしかして散らかってるとか……? 大丈夫っすよ、一人暮らしなんてそんなもんです。私にどーんとお任せください!」


 清水は張った胸にポンっと握り拳を当て、約束を取り付けようとダメ押しする。そんな恥ずかしさと緊張で内心焦っている後輩とは対象的に、バツの悪そうな師人はうーん、と悩みつつ首を縦に振った。


「……分かった。よろしく頼む」


 承諾を受けた清水は「はい、お任せください!」とニコリと笑いながら立ち上がり「トイレに行ってきますね!」と部屋から退出した。

 そして素早く扉を締め、廊下に自分しかいないことを確認すると、よし! と大きくガッツポーズ。ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。


 一方、師人は周囲の刺すような視線に「俺、もしかして変なことした……?」と戸惑いながらも食事を続け、その帰りを待っていた。


 それからしばらくして扉が開いた。集まっていた惑星人は思い思いの拍手を送り、その祝福に対して清水は「えへへ、どうもどうも」と照れながら会釈を返す。


 虫の知らせか、師人はその様子を見て喉を詰まらせむせる。脳裏によぎる嫌な予感。師人はそんな不安を掻き消すように、お茶を一気に飲み干した。

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