第五話 隠された力

隠された力①

 天体術。それは惑星人が独自の身体機能を用い、変異力に特殊な法則性を持たせる技能。生存競争の中で作り上げた宇宙の術理。

 後天的に覚醒した人類が、変異能力を得る代わりに失った力の一つでもある。


「……慣れてきた。速度上げてくれ」

『任せろ』


 両肩に赤黒い翼を羽ばたかせ、空中を高速で移動する師人。異空間に再度侵入し、機械都市のド真ん中に佇む巨大な建物に加速しながら突っ込む。


 鋼鉄の壁を破壊し中へ中へと進んでいく。


 職員の性分と滞在時間から考えて、既に戦闘に発展している。多勢に無勢の上、この船の規模感でトップが弱い訳が無い。武闘派の二人とはいえ相手の天体術によっては─────。


「『第六天体術』・【リボタール】」


 火炎と氷雪が室内に吹き荒れる。半密室での範囲攻撃は避けようも無く放たれていた。


「はやくコッチに!」

「熱ッ! さっむッッ!!!」


 植物の防御壁を繰り出した柊は相良をつたで引き寄せ身を隠す。そして攻撃が止むと半身はんみだけ壁から出し、様子をうかがう。


 そこには相変わらず首根っこを抑えられている真鍋が、宙にぷらぷらと浮いていた。


「なんでアイツ無傷やねん」

「おーい、タケシー! なんで平気なの〜?」

「はいはい〜、オイラは無効化する力があるんだよ〜。って薄情者!! ちょっとは心配しろよ!!」


 周囲の敵兵達は立ち所にちりや氷漬けにされ、動かぬ骸となっている。にも関わらず直撃している真鍋が五体満足である以上、確定だろう。


「ってことは……あの技は姐さんの能力?」

「たぶんね。"吸収と放出"、それがあのタコさんの力だと思うよ」

「かーっ、また面倒なもん持っとんな〜」


 船長フロッド人間てきの生存を確認すると再び部下達に伸ばした指を突き刺す。

 塵となった遺体はその指に丸々取り込まれ、氷漬けにされた体はその血肉だけを吸われて消える。


「どうやら貴様に肉壁ひとじちとしての価値は無いようだ。ならば、我が血肉と成るがいい」

「ちょちょ、待って! タイムタイムターイム! 公僕の皆さん!! 今、幼気いたいけな一般男性が殺されそうになってますよ!!」

「お前一般人やあらへんやろ」


 真鍋の首を万力まんりきのような握力でゆっくりと摑み、その身体を今か今かと吸血の指が取り囲む。


「オイラは義に熱き男! 必ずやご恩はお返しします!! どうか! どうか御慈悲を!!」

「……どうします?」

「うん、隙が無いから無理」


 地球の言語ははっきりとしないが、フロッドは内容を肌で理解し、人質へ指を更に近づける。そしてそんな絶望の渦中かちゅう、真鍋は"温存"を捨てることにした。


「税金泥棒め! お前ら絶対脱税のろってやるからな!!」


 真鍋はヴェ、と口を大きく開け、首を思いっきり後ろに曲げる。そして小さな筒を胃から反芻はんすうし、瞬時に主犯フロッドの顔に狙いを定める。

 顎は全開、舌も動かない、首は締められ声も出ない。それでも真鍋は大きく叫んだ。


ぶぁッひぃぶふぁとアーティファクト!『ゔぉん起動』!!」

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