第4話 ルールー達と村人



 「…さぁ~あ、出掛けよう…荷物を二人で分けて持ってぇ…♪」


 ルールーが鼻歌を口ずさみながら、電磁ライフルの先でツタを掻き分け、足元に転がる風化した白骨を踏み砕いて歩く。


 【それ、何の歌です?】


 まだ戦闘は起きていない為、平和な空気が漂う状況で何気無く葉山がルールーに尋ねると、


 「…昔、よーく観てたテレビアニメの主題歌さ。ロボットの二人が滅んだ地球を冒険する話で…そんな感じ」


 何がそんな感じなのか、葉山はいまいち理解出来なかったが…ルールーの歌声は彼女の見た目と良く合う澄んだ音色で、聞いていて悪い気分にはならなかった。




 「…おー、マッピングが無駄にならなかったな。まだ村があったぜ」


 と、ルールーが顔を上げて電磁ライフルを肩に担ぎ、そう言いながら振り向いて後方のダンカンを手招きした。


 「確かにそうだな、でもどうする? 非敵性施設って所だが…ポイント稼ぎで蹂躙するか」

 「…ま、偵察してから決めようぜ。どうせ連中は逃げられやしねぇからさ」


 日頃はルールーより穏健な印象の彼が、非道な事をサラリと言う姿に葉山は困惑するが、二人はそう言いながら耕された畑の脇を抜け、村の中へと踏み入って行った。



 オールド・トーキョーの中には誰も居ない。旧日本難民は例外措置を除き、足を踏み入れる事は許されていない。しかし、そこには村がある。異世界から転移してきた者が集まり、生活を営む為に作り上げた村は確かに存在するのだが、異世界生物を狩るルールー達は彼等を保護する命令は受けていない。存在を黙認しているだけである。



 「ふーん、相変わらず平凡だな。ま、邪魔しなきゃ関係ないがね」


 村の住人は廃墟になった旧日本の建築物を活用し、住居や倉庫として使っているようで、朽ちた出入口のドアは切り出した木材を組み合わせて代用されている。そんな村の中をルールーとダンカンが進むと、村の住人達が遠巻きに眺めながら動きを止め、中には子供を抱えて屋内に逃げ込む姿も散見される。


 「まあ、そりゃそうだな…言葉も通じない上、外で派手にドンパチする物騒な奴にしか見えんからな、俺達は」

 「…けっ、知ったこっちゃねぇ…どうせ私らは食いもんも飲み物も必要無ぇし、こいつらが生きようが死のうが関係無ぇ」


 ダンカンが急いで閉められるドアを眺めながら呟くと、ルールーはつまらなそうに言いながら足を止め、背後を飛び回るドローン達に偵察を命じた後、木の切り株に腰掛けた。ダンカンは自分達から離れていくドローンを見送ると、ルールーの横に座りガトリングガンの弾倉を確認し始める。



 …オールド・トーキョーが魔境化した直後、気象衛星や軍事衛星の画像を解析した担当官は、理解の埒外な分析結果に戸惑うしかなかった。


 光学的測量データを分析した結果、旧日本の東京は完全に消失し、同じ土地に南北五百キロにも及ぶ広大な空間が並行して存在すると結論が出た。担当官は【ランチボックスの中にワンボックスカーが入っているような状況】だと報告し、それを聞いた全ての者は彼が狂ったかと疑いながら偵察チームを派遣した。偵察チームは遠隔ドロイドと偵察用ドローンで構成され、当地の状況を的確に報告出来る筈だった。


 …しかし、偵察チームのドロイドやドローンは、一機も戻って来なかった。理由は後になって解明されたのだが、完全に自律行動出来るドロイド以外はオールド・トーキョーでは狂って機能しなかったのだ。



 「おい、ハヤマ。ドローン共は順調か?」

 【…いや、余り芳しくないですね…中継器から離れると動作が安定しません】


 ルールーが葉山に尋ねると、彼はリンクを介してドローンを診断し、その結果を彼女に報告する。ルールー達と葉山は基地局機能付きの無人運搬車両を介して回線を維持しているが、ドローンは内蔵型アンテナが小さい為、距離が離れると機能が安定しなくなる。


 「…仕方ねーなぁ、今日はこの村の周辺で狩りをして帰るか?」

 「そうだな…ハヤマ、偵察ドローンは回収してくれ。それと無人運搬車両を寄越して村の付近で待機させといてくれ」


 ルールーとダンカンはそう言いながら立ち上がり、装備を点検して弾倉を確認し終えると、村の外に向かって歩き出したが、


 「…なんだ、あいつ…?」


 ルールーの視線が村の外縁に広がる畑に向けられると、村人の一人が血相を変えて二人が居る所に走る姿が見えた。そのまま村人は彼等の元に辿り着くと、畑の向こう側を指差して何か伝えようと必死になって叫び続けた。そして次の瞬間、畑の先に広がる木々と廃墟を薙ぎ倒しながら、巨大な何かが村に向かって突進してきた。


 「うおっ!? ありゃあ何だよ…」

 「知るかっ! どっちにしてもぶっ殺す!!」


 二人が口々に叫びながら走り出すと、村人は地面に膝を突いて手を合わせ、縋るような眼差しで彼等の後ろ姿を見送った。


 


 


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