29 実家に挨拶にいくことになった
パソコンをいただいた。ハイスペックパソコンだ。
ゲームのパソコンって普通で20万、性能を考えたら4,50万辺り行くイメージ。
前に使っていたのは13万のスペックギリギリのヤツ。なんでも良いだろうと思って買ったら後悔した。最近のゲームって求めるスペックが凄いんだよなぁ。
「パソコンをいただいたので、実家に戻ります」
「辞めて! 家にいて! 捨てないで!!」
腰をそんなに引っ張らないで、いたたたた。
「周辺機器とか机を新しく買うとお金かかりますし、持ってくるのも大変ですし」
「買うよっ!?」
「それが嫌なんですっ」
なんでそんなに金払いが良いのか分からない。非常に怖い。
そこにたまたま学校帰りのましろくんが帰宅。
蒼央さんが事情を説明すると、顎に手をやって、ふむ、と。
「このマンションに引っ越すのはどうでしょうか」
「そーだよ! 本格的に同居しよう!」
「ゲームするだけ家に帰るのは大変だと思いますし、あ、ぼくの家でも良いですよ!」
「人の女を取ろうとすんなよ、ましろん」
「お姉さんのお友達なので、ぼくは」
睨み合う二人。ボクはペースを惑わされてばかりだけど、今日こそは。
「お二人のお気持ちはありがたいですけど、まだ親にも説明はしてないので」
切り札。親の存在をチラつかせる作戦。
未成年にだけ許された特権だ。まだ未成年の君たちは親の名前を出してみよう。人によっては「まだ親の許可が必要なのかよ」と煽ってくるが、少なくともお金などを払ってもらっている以上、決定権は親に帰属するのだ。
「引っ越しとか荷物を持ってくるのも実は難しくて……ハハハ」
「じゃあ、説明をしに行こう! 次いでに机とか周辺機器も持ってきちゃおう」
「男手が必要ならぼくも行きますよ。友達代表として向かいます」
「え、あの、ちょっ。そういう話では」
「レンタカー借りる連絡入れるね」
「ダンボール要ります? 軍手とかガムテームあったかな」
そうだった……!
二人は自立している女性と、外国から単身で引っ越して暮らしている高校生だ。
そんな行動力の塊に圧倒され、あれよあれよという間に実家の前についた。
「アパートだ」
「二階建てなんですね」
金持ち達に家を見られるのなんか嫌だなぁ。東京のマンションに暮らしてる人たちだもんなぁ、セキュリティのセの字もないし。
わぁ、階段軋む、っていうましろくんの言葉が刺さる。
インターホンを蒼央さんが押すと、のそのそと歩いてくる音が聞こえる。
「はぁーい……どなた~……」
扉を開けたのは妹の思音。学校帰りなのか、シャツと体育ズボンでの登場。
「お兄さんと同居中の白濱蒼央って言います。今日は、ご挨拶にと」
「は、はぁ」
「お姉さんの──あ、えーと、お兄さんの隣の部屋の哉草真城って言います」
「か、かなくささん……?」
説明を求められるような目で見られても困る。ボクも困ってるんだ。
「これ、もし、よろしければ。お口に合えばと思って」
蒼央さんの挨拶の品を受け取っていると、奥からひょこと母の顔が見えた。
こそっと、心音くんの顔はお母さん譲りかな、と言ってきた。
「あらあら、心音のバイト先の」
「はい。いつも心音くんには大変お世話になってて──」
父親は帰ってきてなく、ボクと母、机を挟んで向こうにましろくんと蒼央さんという構図。
「心音さんには小説のお手伝いをしてもらっています。イメージとしては、漫画のアシスタントさんのようなものだと思っていただけたら幸いです」
嘘をつくな、嘘を。
「それと私個人のマネージャーのようなものもしてくださっていて、食事面や衛生面の管理もしてもらってます。心音さんの意向もあり、1ヶ月弱ほどの試用期間を設けていましたが、設ける必要性を感じないほどで。ぜひ、継続してお願いしたいと思い、この度、ご挨拶に来させていただきました」
「良いですよ。良い社会勉強になると思います」
「ありがとうございます」
「いっそ引っ越しちゃえば? 心音。住み込みなんだし」
あー、そんなこと言うから。蒼央さんが要らぬ交渉の手間が省けたって顔してる。
いや、笑顔ではあるんだけど、薄められた目の奥で「やった。親公認だ」って小さな蒼央さんがガッツポーズしてるのが見える、見えるぞ……。
そこから蒼央さんが母に言葉巧みに引っ越しの話題を持ち上げまくって、ボクの荷物移動が決まった。
といっても、住所は移動させないし、書類関係も実家に届くようにしておく。
蒼央さんが小説家なのを証明するために経歴書のようなものと、自作の小説を渡していたのは驚いた。それと、ドラマ化された作品の全話が入った円盤をプレゼント。
世間話にも花を咲かせている姿はさすが大人って感じ。
(ただ、ボクの部屋の私物を移動させるだけってなのに大掛かりな)
蒼央さんをチラッと見ると、微笑まれた。
この人、家の中と外じゃあキャラが違いすぎる……。
「これを蒼央さんの家でまた組み立てるの……鬱過ぎますね」
「こういうの好きですけどね」
「さ、ちゃちゃっとしちゃおう! 東京の駐車場料金はバカだからね」
三人で机やモニター等の周辺機器をまとめていく。
押し入れに買った際の段ボール箱を持っておくタイプなので、分解さえできたらスムーズにしまうことができた。
トイレに離脱した時に妹から「あれがママ活の人? 美人さんだね」と言われた。
母からは「好きなドラマの原作の人なのね、心音、ありがとう」と言われた。
すっかり、うちの家族に取り入ってた。
一時間とちょっとで荷物をまとめると、実家とお別れを告げて、レンタカーに荷物を詰め込んでいった。後部座席のボクは雪崩が起きないように身体で支えながら。
「しゃあ! ペーパードライバー!! 発進しまァス!!」
「れっつごー!!」
「安全運転でッ──」
急発進、急停止のオンパレード。家に帰ったら、とりあえず謝ってもらおう。
荷物の搬入も無事にできた。エレベーターを作った人、本当にありがとう。
でも、もう荷解きする元気ないよぉ……。
「お姉さん、パソコンのセッティングまで頑張りましょう! なんのゲームします! 配信は22時からやるので、それまでに間に合うなら」
「ましろくん……大学生はね、もう……おじさんなんだよ」
それに、とボクはクッションで溶けてる蒼央さんを指差す。
服を脱ぎかけで止まって、何をするのも面倒くさくなったのかそのまま停止してる。
「もう電池切れの人がいるし、ボクも疲れたから……荷解きはまた今度で」
「えー……そうですか……。じゃあ、セッティングをする際はまた呼んでください! ワガママ聞いてもらわないとなので」
「あれ、ワガママ……? パソコンもらったし、撮影会? いく……」
「アレは大会運営者とスポンサーさんの話で、ぼくのはまだですよ、おねーさん」
口元に手を当てて、小悪魔のように笑われた。
あ~、ましろくんはいい子というイメージが先行してたけど、そうだよなぁ。
個人でVTuberをしていて、一人暮らしをしている時点で、こう……ガッツというか、ちゃんとしてるよな。
「というコトで、失礼致しました!」
「うぁーい」
クッションに沈んだまま蒼央さんが返事して、扉が閉まったと同時にボクも布団の上に倒れ込んだ。その日はもう荷解きはせずに、蒼央さんも「今日はお休みにしよう!」と言っていた。
そして、次の日の大学。
「よぉ、ミオ。よくも私を無視してくれたな」
「ひぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます