27 最多キル賞おめでとう〜!



(結局、ましろくんのワガママってなんなんだろう)


 うーん、考えても分からないか。

 GWが終わって、大学が始まった。

 学部棟に入る際に先輩らしき人たちが周りを見て鼻で笑っていた。


「そろそろ1年生の奴らが、勢い余って登録しすぎたコマ数に絶望してる頃だな」


(……?)


 1時限目の講義室に向かうと、なるほど、そういうことか、と思った。

 教授も入ってくるやいなや苦笑いになる。


「毎年、この時期は受講人数減っちゃうからハハハ。五月病だね~」


 小柄な女性教授が呆れながら笑っていると、スンッと怪しい表情になった。


「だから、絶好の小テストのタイミングなんですよね~。さ、この講義一発目の小テスト、いっちゃいましょうか」


「わあ……」


「今からご友人に小テスト連絡を送っても良いですが、間に合いますかね~? 10分間待ちましょう。その間に、今いる人達は復習をしてくださいね~」


 おそろしい立ち回りを平然とする。

 たぶん、復習しないと解けないような内容になってるんだろうなぁ。

 何人か急いで講義室に入ってきて、教授にニコニコとした顔で見られていた。

 8分あたりから講義のサポートをする学生ボランティアの人たちに小テストの配布をやってもらい、「友達の分の小テストをもらっておく」という手法ができない周到さを見せる。

 10分が経って入ってきた子達には冷たい目を向けていた。こわーい。


「GWで気が緩むかもしれませんが定期的に小テストがあるので頑張って来てくださいね。あと、2年生からのゼミでは私のゼミは地域経済史を中心にやっていくので、気になった方は──」

  

 この教授怖いとなったタイミングでゼミの話をし始めた。

 みんな、誰が行くんだよって顔をしてる。


(地域経済史か~……楽しそうだけど)


 二年生になったらゼミが始まるのか~。どこにするか決めておかないと。

 その後の講義も出て、講義を取って、学食を食べて、講義を出て。


「ほんとうに人の数が減った気がする。図書館で勉強する人も減ったか」


 ただの机よりも、仕切りがある机がいいんだよなあ。お、空いてる。

 そこに座ろうとすると、ぼくの後ろで「アッ」と小さな声が聞こえた。


「あっと……座ります……?」


「あ、いえっ、その……」


「ぜんぜん良いですよ。ごめんなさい」


 って、あれ、この人……伊尾さんといっしょにいたタローさんだっけ?

 金髪だったのが黒髪に押し寄せられてプリン頭になってきてる。

 メガネ越しに目が合うと、カバンを抱えていたタローさんは「フヌェ」と小さな声を上げて、走ってどこかに行ってしまった。


「こォらッ! 図書館は走るなッ!」


 本棚の整理をしていた司書さんに怒られて、ペコペコと頭を下げていた。

 伊尾さんの友達だからもっと肩を組んでくる感じの人かと思ってたけど、真面目というか……もしかして、ぼく寄りの人間なのかな。

 

『しらはま)みおとくーん、今日いつごろ帰る〜?』

『心音)20時前には行けるかなとは思うんですけど』

『しらはま)おっけー!』


 蒼央さんからの連絡を返していると違う通知音が届いた。THISCORDか。


『ましろ)お姉さん、お疲れ様です!』

『心音)お疲れ~』

『ましろ)返信ありがとうございます! 家に行ってもいいですか……?』

『心音)まだ学校が終わってないんだ~。20時前には帰ってるとは思う』

『ましろ)分かりました!』


 二人から連絡が来るなんて珍しいなあ。

 最後の講義まで時間があるから、SNSでも眺めておくか。

 

(このトレンドの#ましろんとお姉さんってなんだ……)


 涙目のましろくんが、豊満なお姉さんに撫でられてるイラスト……。でも、お姉さんのキャラが定まってないようで、イラストによって姿が違う。

 んー……? これって。


「ボク……?」


 吹き出しがあるイラストには、ボクが言った言葉が書かれるし。

 そうか。お姉さんって呼ばれてたから、お姉さん=ボクってことか。

 結構イラスト書いてもらってるんだ。なんだか嬉しい……。

 へぇ、結構イラストあるんだな──18禁のイラストッ!!?

 

(知らないところで、18禁イラスト書かれてるの複雑……)


 いいね数もそれなりについてるし、ブックマーク数も……。


「お、いたいた。ミオ~。久しぶりッ!」


「ヒョッ……いお、さんッ……」


 肩を叩かれて、スマホの画面を机に叩きつけるように置いた。


「葉加瀬が図書館にいるって言ってたからよー、来たぜー。何見てたんだ?」


「なにも見てないですッ! お疲れ様ですッ!」


 机に何も出してなかったのが幸い。カバンを持ったまま、ダッシュで伊尾さんから逃げた。後ろから声がかかるが、今日ばかりはごめんなさい!


「こらァ! 図書館は走るなッ!」


「す、すみません!」


 そのまま図書館を走り抜けて、最後の講義を出て、気がつけばマンションの前。

 次、伊尾さんに会ったら殺されるかも。その前にちゃんと謝らないと。

 というか、あの金髪メガネの人。葉加瀬だからタローって呼ばれてるのか。伊尾さんにぼくの情報を伝えて、伊尾さんがそれで来た、と。


(何か用事でもあったのかな。でも、18禁イラスト見てたって思われるの嫌だし)


 せっかく来てくれたのに申し訳ない。明後日は講義が被るし、その時に謝ろう。

 二人に連絡を入れると、入口の横に停まっていたトラックから人が降りてきた。

 

(こういうときってどうするんだろ。ボクが先に入っていいのかな)


 もしも、ぼくが扉を空けたところに配送業者さんが入っちゃって……。いや、配送業者じゃなくて、変な人達だったら……。

 

(よし、先に入ってもらおう)


 エントランスからそそくさと出ていって、様子見。

 ちゃんと部屋番号を打って、荷物の搬入をしていた。気にしすぎだったか。


(気まずくならないように、ちょっと時間を空けて上がろう)


 そう思って、数分空けて4階に上がると──配送業者さんがいた。


(うわあ、入りづらい)


 業者さんが帰りだしたのを見計らって、さも今来たような雰囲気ですれ違う。よし、問題ない。

 

「蒼央さん、なに注文したんですか……?」


「わたしじゃないよぉ……。びっくりして聞いたもん」


「配送間違い……? でも、部屋番号とか間違ってないのか。詐欺とか?」


「いや、誤配送かどうかは確認したし、法律上は開封しても大丈夫らしい。中身だけ確認する……?」

 

 蒼央さんと頷き合い、玄関横にあったカッターで開封。

 そろっと開けてみると、メッセージカードとデカイ箱が入っていた。

 そのメッセージカードに書いてある内容は──


『最多キル賞おめでとう~! イラスト付きのパソコンだよ! 感動をありがとう!』


「…………」


「…………」


「これって、この前の大会の……?」


「最多キル賞って、ましろくん……でしたっけ。優勝したのはそうですけど。…………とりあえず、ましろくんの住所設定のミスだと思うので」


「あ、やっと届きました!?」


「ヌワッ!?」


 扉の横からひょこっとましろくんが登場して、びっくりして声を上げた。

 

「それ、ぼくからのプレゼントです!」


「へっ……、え、えええええっ!?」

 

 もう1回、びっくりして声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る