07 キミを飼いたいと言われましても


 残りの講義も順調に終わり、本日の大学が終了。

 外行き用のちっちゃい鞄だからレジュメが入らんのだ。


「で、再び。ここですか」


 一回、家に帰ろうかと思ったけど、意味もわからない連投のせいで未読のメッセージが限界値に達してる。──RINE(999+)──こんな数字みたことないぞ。

 スマホにもSNSの運営会社にも申し訳ないので、帰り際に寄った。


「一応、言質は取られてるワケだしな……マンションでかいな」


 こんなにでかかったのか。ひーふーみぃ……あ、首が痛くなってきた。

 小説家って稼げれるのか? あんまりそういうイメージないんだけど。実はここも高層なだけで家賃はそんなに……でも、ここ結構利便性いいからなぁ。


「えーと……ここから出てきた、よな」


 こういうマンションの入口ってよくわからないのだ。

 えーと? どうしたらいいの? 二枚構造の扉だから、一回中に入るか。

 ……で、番号を押すところがあって。


「……何号室だっけ。……電話するかあ……」


 もちろん蒼央さんの連絡先は一番上にいる。ありえないほどのメッセージを引っさげて堂々たる出で立ち。アイコンはなんだそれ。猫? 黒猫かな。猫好きなのか。


 ──♪(ガチャ。


「え、はやっ」


『心音くんきた!?』


「はい。来ましたけど……」


『待ってて!! いま、降りる!! うわっ、あ──ゴンッガシャーン!!……ちょっと、まってね!?』


 絶対転けたな今。

 しばらくすると『あの日にみた蒼央さん』になりかけの状態で降りてきた。目が合うやいなや小走りでやってきて、扉をあけて、手をグイグイ引っ張ってきた。


「あの、蒼央さん」


「部屋に上がってから!!!」


「あ、はい」


 ぼさぼさの髪の毛を直しながらエレベーターにのって、到着したのは4階。

 向かうのは401号室なのね。覚えた覚えた。鍵をスマホで開けると、そのままグイと部屋に押し込むように入れられた。


「ようこそ!! わたしのお家へ!!」


「なんで家の中に入るとなんか縮むんですか」


「気が抜けるからだねー……。外は、危険がいっぱい……オーケー? こんな姿を誰かに見られたら、社会的に終わるのだ」


 靴を脱ぎっぱなしで玄関を抜けていったと思うと、ピタと止まった。


「スリッパ! 多分、横の戸、無かったら捨てたかも……買った記憶はある……」


 横の戸を開けてみると、まだ開封すらされていないスリッパがあった。


「おー、あったあった。ささ、来客用のスリッパをお履きください。ゴミは預かるよ」


「もこもこしてる」


「ちなみに、この家の来客は心音くんが初だぜ」


 こんな部屋だから招き入れるのも憚れる……おっと失礼。

 とりあえずお邪魔します。部屋数は三つ? で、奥にある大きな居間があって、奥にキッチン……こんな部屋だったのか。広いなぁ……。なんでこんなところに一人暮らしを。


「そっちはまだ全然掃除できてないから、こっち! 私の部屋!」


 通路横の部屋に連れ込まれた。

 うん。朝に目覚めた部屋だ。

 蒼央さんはゴミを蹴っ飛ばして場所を確保すると、どこから引っ張ってきたのかクッションを床に置いて、座ってくださいとジェスチャー。


「そういえば、これ。蒼央さんに」


「ん? なにそのコンビニ袋」


「近くでコーヒー買ってきました。コーヒーが好きってのは覚えてたので」


「うわわわ。ありがと〜、え、いくらだった? 払うよ?」


「いや、奢ってもらったみたいですし」


 その後にお持ち帰りされちゃったけど。


「わぁ、いいのに。……でも、その格好ってことは大学もその格好で?」


「あの時計、遅れてますよ」


「えっ。あー……いつもスマホかパソコンで確認してるから……てへ」


「……」


 気持ちは分かるけど。だったら、外してもいいんじゃ……いや、部屋がこの状態になってる人にとやかく言うのは野暮か。

 まぁ、それはこれから解決する内容だ。


「あ、でさ! 今日来てもらったのはさっそく──」


「その前に」


 手を前に出した。ストップ。何かをする前にやりたいことがある。


「部屋が汚いので、掃除します」


「へ」


「なので、手伝ってください。話はそれからで」


「えっ、えっ、でも、掃除道具とか……そんな満足には」


「最低限は買ってきました。この調子なら、長居しそうだったので」


 掃除機とかはあるだろうからと用意したのはコロコロとウェットシートとホコリ取り、ゴミ袋、Mサイズの手袋。マスク。全部が100円均一で買えるものばかりだ。こちらはちゃんと請求するつもりである。


「人を招くなら、最低限の部屋があります。せっかくいいところに住んでるんですから、キレイにしますよ。ほら、蒼央さんも」


「えっ、で、でも〜……そんなに困ることじゃあ」


 スチャとマスクを付けて、手袋を装着。まずはゴミを捨てるところからだ。

 

「わぁ……可愛い女の子が掃除しに来てくれたみたい……」


「男の子です」


「そ、そうだよね! 男の娘だもんね! よしっ、じゃあお姉さんも頑張っちゃうぞぉ〜!!」


 そうして掃除に取り掛かった。


 結果、それだけでも太陽が没むくらいまでかかった。この時間から洗濯機を回したり、掃除機をかけることに躊躇したが「このマンションは音漏れぜんっぜんしないから、がんがんやっちゃって」と言われたのでガンガンやってやった。


 結果、ゴミ袋が六袋。

 洗濯機が一回では回しきれずに二回。

 掃除機のゴミは何回捨てたか分からない。

 ウェットシートは全部なくなったし。

 風呂場とトイレと水場なんて最悪だった。思い出したくもない。


「持ってきた道具で足りないとは思わなかった」


「でもキレイになった!! ぱんぱかぱーん!」

 

 まだやり残したところはあるが……仕方ない。これは次があれば、その時にしよう。

 そして、蒼央さんの自室に戻ってきたところで、話が本題へと移ったのだが。


「わたしは、心音くんを飼いたいと思ってます」


 この人には倫理観がないのだろうか。

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