第4話〜もりもり
民家を通り過ぎて、森の入り口付近へと来た。鬱蒼としている森は種田山頭火の詩を思い出すほどの青で彩られている。
とても静かな森で、ここで本を読んでコーヒーを飲むなんて事も出来るだろう。
「うおー地元の山の森とはやっぱ違うなぁ。島だからか?」
三人が森の中に入ろうとすると、慌てたご婦人が急にこちらに来た。小綺麗な服装で頬が丸く、息切れをしているようだ。
「ちょっとそこのお兄さん達、そこの森は立ち入り禁止よ」
「もしかしてこの森って熊出るんですか?」
針口がそう聞くと、彼女は激しく頷いている。
「熊も出るけど」
「この森は村の者でも迷うのよ。だから絶対に行かないことね」
「そうだったんですね」
彼以外は納得していないようだったが、ご婦人はすぐに去ってしまった。その様子に少し違和感を覚えた。
「なぁ、針口。この森おかしいのだ。森というより島全体がおかしいのだ」
「そうか?普通の島だろ」
少女が耳を澄ましてみても、やはりこの森は静かである。獣の唸り声が聞こえる訳でも、ましてや化け物の声が聞こえる訳でもない。
しかし、この森。いや、この島は妙なのだ。
「うん、変だよ」
「お前もか…どこが変なんだ?」
ヴェニアミンは彼女に言われて気づいた。確かにこの島にはあの声がない事に。
「この島に熊はいない。本州の南側には、ほぼ生息していない」
「えっ、そうなのか?」
「あの
九州地方や南の方の島々には熊は居ない。生息しているのは北海道や東北の土地である。
「それに蝉の声が全くしないのだ。今は夏なのに」
「え…マジだ。嘘はつかれるわ、夏の風物詩は居ないわ、この島本当に大丈夫か?」
そう、この島では蝉の声が全くしないので森は静かである。都会や田舎でも、道端には蝉の抜け殻や本体がうるさく鳴いているはずなのにこの島にはいない。
針口は少しゾッとした。熊の嘘は何らかの理由があるだろうが、何故蝉が居ないのかは説明がつかないからだ。
「まだ他の所も確認…じゃなくて!他の所も行ってみるのだ」
「じゃあ民家行くか。そこらへんの売店で何かお土産とか買いたいし」
そして三人はまた村の方に引き返して行った。
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