現実のツンデレに恋しちゃ駄目ですか?

春戯時:-)

第1話 現実のツンデレに恋しちゃ駄目ですか?

立原 一真(たちはら かずま)、16歳。

それが俺の名前だ。

黒髪、黒目な凡人だ。

意外とモテる俺だが、正真正銘のヲタクだ。

そんなヲタクな俺は数か月前まで、2次元にしか興味が無かった。

そう数か月前、あいつと出会う前までは。



***



その日は、俺が好きな漫画、「真昼ちゃんはツンデレにつき」の新刊発売日だった。

授業が終わった瞬間、教室を飛び出る。

新刊の発売は昼からで、俺は買いに行くことができなかった。

通称「真昼ツン」は若い年齢層の人達に、絶大な人気を誇る神作だ。

しかも今度、第3期を放送予定。

本当にありがとう、この作品を生んでくれた作者よ!

もう作者には感謝の言葉しかない!

校門を飛び出て、近所の本屋さんを目指す。

急がないと完売してしまう……。

俺は電子書籍よりも実物の方が好きなのだ。

その為、家には「真昼ツン」の本やグッズが山程ある。

俺は初期からのファンで、コメントも欠かさず投稿している。

つぐ先生の本を逃してたまるか!

つぐ先生とは、「真昼ツン」の作者であり、本人もかなりのツンデレだ。

俺や他の人のコメントにも『私の作品を読むなんて相当、暇なのね』とか『他の作品、読んだ方が良いんじゃない?とりあえずは感謝しておくわ』と返してくれる。

こんなコメントばかりだが、ユーザーのコメントには必ず返信してくれる。

アンチに対しても『そう言ってて結局、読んでくれてるんじゃない。ニヤけるわ』などど、ツンデレの可能性を見せてくれる。

俺にとっては、癒しの存在だ。

そうこう考えているうちに本屋さんに着く。

本屋に入ってから、すぐにつぐ先生の特集コーナーに向かう。


「「……あった!」」


残りの1冊に手を伸ばす。

すると、他の人と手がぶつかる。


「あ、すみません」

「え、あ……、こっちこそ、ごめんなさい」


この人も新刊を目当てで、本屋さんに買いに来たのだろうか。

よく見ると同じ高校の女子制服を着ている。

クラス章は、隣のクラス?

そんなことを考えていると、目の前に新刊が突き出された。


「え?あの、これ……」

「べ、別に私はもう買ったし!だからあげるわよ。別に貴方が欲しそうにしてたからとかじゃないからね!」


これがツンデレというものか……。

ツンデレをネットや漫画以外で初めて見た。

こんな感じなんだな……ツンデレって。


「いいから早く受け取りなさいよ!」

「え、でも君も欲しかったんじゃ……」

「別にもう持ってるし!昨日、買ったから良いの!」


え、発売日って今日じゃ……。

そんなことを口にする暇もなく、本を受けとらされる。

でも彼女は少し寂しそうに見えた。


「……ねぇ、良かったらなんだけど。俺がこれ買うから一緒に見ない?」


その魔法の言葉を発した瞬間、彼女の顔がパアッと明るくなった。


「い、いいの?」

「うん、良いよ」


そして俺達はともだちになった。

彼女は嘉戸 津雲三(かど つぐみ)、俺と同じ高校に通う16歳の女の子だった。



***



そして今に至る。

津雲三とは一緒に漫画やアニメを観たりして、語り合った。

そして俺は気づいた。

やはり……本物のツンデレであった!

そして、いつの間にか2次元にしか興味がなかった俺が心惹かれた相手でもある。

最初は気のせいだと思ったが、だんだんと時間が経つにつれ、自分が津雲三を好きなのだと自覚した。

そして俺は一大決心をした。

今度の日曜日に津雲三とコラボカフェに行くのだが、その時に告白する!

つぐ先生にも報告をした。

すると『応援はしてないけど、頑張りなさいよ!べ、別に成功したら良いね、とか絶対に思ってないし!』と返信がきた。

さすが数々のツンデレ作品を生み出してきた人だと思った。


「一真、一緒に帰ろう。べ、別に自分が寂しいとかそういう理由じゃないからね!」

「うんうん、そうだね~」


あぁ可愛い、可愛すぎるって。

内心悶えているのを隠しながら帰路に着く。

津雲三は俺と同じ黒髪、黒目のれっきとした日本人なはずなのだが。

どうしてツンデレになったのか、それは未だ謎のままだ。


「……一真、コラボカフェ楽しみだね」

「あぁ、そうだな」


ツンデレが素直になってる?!

これもある意味では良いのではないか。

いつもツンデレな友達が好きなものの事になると、素直になる。

これは漫画での鉄則だ。

にしても、ツンデレって最高かよ……。



***



ついに日曜日がやってきた。

身だしなみも整えたし、髭も剃ってきた。

大丈夫なはずだ、が……。


「一真、来てやったぞ。ありがたく思えよ」

「え、じゃあ帰る?」

「え?!いや、帰んない。帰んないもん!コラボカフェ一緒に行くんだもん!」

「そうだね~、よく言えました」


あー、可愛すぎだろ!

どんだけ可愛いんだよコイツ!!


「じゃあ、行こうか」

「うん」


そう言ってコラボカフェへの道を歩き出す。

俺はコラボカフェでスイーツを頼んだ後、告白をする予定だ。

その事は俺と、つぐ先生しか知らない。

つぐ先生には勇気を貰った。

だから頑張る。

ちなみに告白が終わったら、直筆サイン入り色紙を御褒美にくれると言ってくれた。

そういうところは、面倒見が良い。

そんな人柄だからなのか人気が高まり、有名な作品となった。

コラボカフェに着いてスイーツを頼む。

今回は人目のあるところでの告白だ。

物凄く緊張する。

俺から告白は一度もしたことがない。

何故なら女子から俺に告白してくるからだ。

だから凄く緊張している。

今も心臓が体を突き破りそうだ……。


「一真、食べないのか?あ、べ別に心配してる訳じゃないぞ!」

「いや、食べる前に話がある」

「え?」


鼓動が早まる心臓を押さえ付けながら、深呼吸をする。

あぁ、もう言ったれ!


「……津雲三、俺と付き合ってください」

「……良いよ」

「だよな良いよなって、ええええぇぇ?!」


つい驚いて席から立ち上がる。

え、良いって言った?

固まっていると周りから拍手が起こった。


「あついねぇ~、おめでとう!」

「良かったな!兄ちゃん!!」


津雲三を見ると、少し照れ臭そうに下を向いていた。


「えっと、じゃあこれからよろしく?」

「う、うん。べ、別に私も好きだったとかそういう訳じゃないから!」

「もう、天邪鬼だなぁ~」


そんなほっこりする空気の中、俺は心の中で「よっしゃあぁぁぁ!」と叫んでいた。

コラボカフェの帰り道、俺は津雲三と手を繋いで帰った。


「津雲三、今日はありがとな。めっちゃ嬉しかった」

「私も嬉しくはあった……、かもね!」

「なんだよ、それw」

「「……(照)」」


2人で顔を見合わせて笑う。

そして少し津雲三は迷ったような顔をして、口を開く。


「あ、あのね……。私、隠してたことがあって……」

「ん?何?」

「あの、実は一真が好きな"真昼ツン"を書いたの、あれ…………私なの!」

「……」

「……一真?」

「えええええぇぇぇぇぇぇ?!?!」


その驚いた声は町中に響いたという。

ん、待てよ。


「自分の書いた本、なんだよな?」

「うん……」

「じゃあなんで本屋にわざわざ買いに行っていたんだ?」

「あー、それは。自分で書いたものでも、やっぱり自分の足で買いに行きたいんだ」


"自分の書いたのものを、自分の足で"……。

そっか……。


「ん?てかそれなら、"かず"っていうユーザー知ってるか?」

「え、うん」

「あれ、俺」

「……」

「……津雲三?」

「えええええぇぇぇぇ?!」


津雲三、気づいていなかったのか……。

驚いた顔も可愛い。

そんな俺に気づいて、


「別に!知ってたし?!今、初めて知ったとかじゃないし!」

「あー、そうだね。今気づいたんだねー」

「もーう!……でも、そっか。ありがとう」

「急にどした?」


いつものツンツンオーラはどこかに行ってしまった。


「私は最初からずっと一真に励まされてた。最初に私の作品にコメントくれたのは一真なんだよ?」

「あぁ、それもそうか」

「変なの、第1号がそのことを覚えてないなんて。本当、私がいないと駄目ね!」


そして又、2人で顔を見合わせて笑う。

こんな日々が、これからも続いてほしい。

俺達はこれからも進んでいく。

2次元失格だろ、なんだろ言われても構わない。


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