第5話「策略を巡らす美少女」
学園に入学して三年が経過した。
「あー疲れた〜〜。
あいつら言葉わかんないのかよ〜〜。
言葉が通じないよ〜〜。
もう家に帰りたくないよ〜〜。
愚かな居候とも、アホな婚約者とも顔を合わせたくないよ〜〜」
ここは学園の中庭にあるガゼボ。
お昼休みに親友とここで過ごす時間だけが、今の私の唯一の癒しだ。
「あなたの異母妹、ゲルラッハ子爵令息と一緒になって、あなたの悪口を言いふらしてるものね。
やれ姉に物を盗まれた、やれ家で姉に暴力を振るわれてる、やれ姉に暴言を吐かれた……。
学園でこれなら家ではもっとすごいんでしょうね?」
「うん……それはもう酷いよ。
癇癪を起こすわ、泣きわめくわ、平気で嘘はつくわ……。
異母妹が泣きわめくと父と父の愛人も加わって吠え出すし……野犬の遠吠えを聞いてる方がまだまし」
父と父の愛人と異母妹を避けるため、私は離れに住んでいる。
それでも時おり庭や門で待ち伏せされて、文句を言われるのだ。
いまさらだけど居候が本邸に住んで、当主の私が離れに住むとか、有りえないわ。
「なぜミランダを学園に通わせたの?
伯爵家の当主であるあなたがお金を出さなければ、彼女は学園に通えなかったはずよ。
彼女を学園に通わせなければ、少なくとも学園では平穏に暮らせたはず」
クロリスにそう問われ、私は彼女になら計画を話してもいいかなと考えていた。
「ゲルラッハ子爵令息の評判も良くないわ。
婚約者の異母妹と構わずイチャイチャして。
婚約者の悪口は言いふらすわ、婚約者と学園内ですれ違えば高圧的な態度で罵詈雑言を吐くわ……およそ貴族の令息とは思えない振る舞いだわ」
アデルと異母妹は学園でもそんな調子なので、良識のある貴族は彼らから距離をとっている。
二人だけの世界にいる彼らには、孤立しているという認識はないようだが。
「彼らの行動は度を超えているわ。
これだけ証拠があるのに、婚約破棄できないの?」
「実はね……」
私は今まで親友にも秘密にしてきた計画を話した。
ガゼボに人気はないし、クロリスは信頼できる子だから話しても大丈夫。
「それでね異母妹を学園に通わせたら、学園内でアゼル様とイチャイチャして、さっさと既成事実を作ってくれるかなーっと思って」
アデル様は意外と奥手なのか、異母妹とキス止まりの関係だ。
さっさと異母妹をホテルにでも、つれ込んで既成事実を作ってくれればいいのに。
そうなれば、今すぐにでもアデル様との婚約を破棄して、子爵家から慰謝料をふんだくれるのに。
異母妹のこの数年で胸は大きく成長し、今やFカップ。
幼い頃私から盗んだ服はすでに着られなくなっている。
だからといって異母妹に服を買ってやるのも癪だ。
本邸の私の部屋はそのままにしてある。
なので私は本邸にある自室のクローゼットに、異母妹に合うサイズの古着を入れておいた。
異母妹は私の部屋に侵入しドレスを盗んでいった。
私と異母妹では胸の大きさが違うのに、私の部屋にある服のサイズが自分にぴったりなことを疑問に思わないのかしら?
ついでに計画が成功するまで少額だが父にお小遣いもあげている。
計画が成功した暁には、彼らにかかった費用を全部回収したい。
異母妹は胸の開いたドレスを好んで着る。
ボディータッチも頻繁にしているようだから、異母妹と一緒にいるアデルはそうとうムラムラしているはず。
それなのにあの男はなかなか一線を越えないのだ。とんだ臆病者だ。
「ゲルラッハ子爵令息とミランダ様はハグやキスやデートをしているのよね?
それだけでは不貞の証拠にならないの?」
「アデル様の両親は意外としたたかで、なかなか婚約破棄に同意してくれないのよね。
亡き祖父も母も婚約解消するために奮闘してくれたんだけど、結局婚約を解消できなかったわ。
今子爵夫妻に話しても『アデルは義理の妹になるミランダに優しくしてるだけです』とか言って、のらりくらりと躱されてしまいそうで……」
中途半端な証拠を提出したら、子爵夫妻は結婚式までアデルを謹慎処分にするかもしれない。
そうなったら終わりだわ。
「だからアデル様と婚約破棄するには、子爵夫妻を黙らせるだけの決定的な証拠が必要なの。
アデル様が異母妹をホテルに連れ込んで、やっちゃってくれるのが一番いいんだけど……アデル様は不能なのかしら?
異母妹とキスやハグ止まりで、なかなか一線を越えてくれないのよね」
異母妹は頭は空っぽで、礼儀もなってない。しかし顔とスタイルだけはいい。
その異母妹とイチャイチャしているくせに、一線を越えないアデルは、本当に不能なのかもしれない。
婿養子に入る者が不能なのは致命的だ。
アデルの不能を証明して婚約破棄してもいいが、それには時間がかかりそうだ。
最悪の場合「何年か床をともにしてから〜」なんて言われかねない。そうなったら詰む。
やはりアデルと異母妹に一線を越えてもらうのが一番だ。
「アデルに『ミランダが具合が悪くなったからホテルで休ませただけだ』なんて言い逃れさせないために、
二人につけている監視役に、彼らが泊まった部屋の前まで行かせ、ドア越しに二人のあえぎ声やベッドのきしむ音を確認させるつもりよ。
そのあと二人が泊まった部屋を買い取って、アデル様の恥ずかしい液のついたシーツを証拠として押さえるつもり」
ここまでやれば子爵夫妻もぐうの音も出ないでしょう!
「そう思っていたけど、アデル様が予想していたよりも遥かにヘタレで行動を起こさないのよね!
こうなったら完璧を求めてはいられないわ!
この際二人が同じ部屋に泊まるだけでもいいわ!
それを不貞の証拠として提出して、アデル様の有責で婚約を破棄してやる!」
学園に入学して約三年が経過した。
再来月には卒業式が行われる。
卒業したらアデルとの結婚の準備を始めなくてはいけない。
その前にアデルとの婚約を、なんとしても彼の有責で破棄しなくては……!
「でもどうやって、二人をホテルの同じ部屋に泊まらせよう……?」
都合よくデート中に雨でも降ってくれればいいけど。
それでも彼らが確実にホテルに泊まるとは言い切れない。
もっと決定的な何かがあれば……。
「カトリーナ、もしかしたらゲルラッハ子爵令息はお金がないのかもしれないわ。
それでホテルに泊まれないのかも?」
クロリスの言葉に私はハッとした。
「確かにその可能性はあるわね!」
以前アデルに「お前が両親に告げ口するから小遣いを減らされた!」と言われたことがある。
子爵夫妻にアデルの苦情を言ったのは三年以上前の事だが、その時からアデルのお小遣いは上がっていない可能性も考えられる。
「あぁぁ……!
しつこく子爵家に苦情を言ったのが裏目に出たわ!」
もしかしたら子爵夫妻は、年頃になったアデルが不貞を働かないように、わざと彼のお小遣いを減らしたのかもしれない。
「ならこういうのはどうかしら?」
クロリスがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「カトリーナ、あなたがゲルラッハ子爵令息にお金を与えるのよ。
幸い来月はゲルラッハ子爵令息の誕生日があるわ」
「そうね、誕生日ならプレゼントと一緒にお金を上げても不審に思われないわ」
さっすが学年首席! クロリス頭いい!
「ゲルラッハ子爵令息には、
『あなたの好みがわからないからこのお金で好きなものを買って。
子爵夫妻には内緒よ。
プレゼント一つ満足に選べない無能な女だと思われたくないから』
と伝えればいいわ」
クロリスは黒い笑みを浮かべた。
美人は邪悪な笑みを浮かべても絵になる。
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