第2話 眩しき白い空間にて
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」
ふと、気が付くと真っ白な世界。どうも頭が回らない。どうしてこのようなところにいるか、思い出せない。
ただ真っ白な世界に、私は居て、立ち上がろうとしたが、ふわふわした感覚で、そもそもどこが地面で、どっちが上かすら分からない。無重力というものはこういうものなのだろうか、とふと私は意外と落ち着いて感じているのに、我ながら驚いた。
「ここは……」
と、私は周りを見渡したが、さっきの声が聞こえたのはどっちの方向とも言えない。周囲を見渡してみるが、どっちが前でどっちが後ろともいえない。本当にここはどこだろう。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんn」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何がどうだか分からないが、分からないからこそ、何を謝られてるか分からない。まずは君は誰だ? どうして私はここに……ここはどこだ? 姿を現してくれ」
またエンドレスなのが始まったので、まず話を聞くために待ったをかける。私は色々な事を思い出そうとしたが、記憶が物凄く曖昧で……待て。私は……誰だ?
「ごめんね、リィズちゃん!」
「まったく仕方ないわね、任せておきなさい!」
「ありがとう! 『その人』のことお願いするね!」
という2つの声がしばらく重なったかと思うと、眩くゆえに見る事すらできない光が空間を満たし、その後こほんという咳払いらしき声が聞こえた。
光が満ち何も見えない中、急に荘厳な……なんともいえないが、私は無宗教というか、そもそも神を信じていないのだが、認めざるを得なくなりそうな神聖な空気の中に私は居て、さっき言い争っていた片割れの「声」が続いた。
「……迷いし魂よ、汝、我が導きに依りて、この場を訪れし子羊よ。汝は我が世界に、汝とは異なる世界へと、この世界での運命より外れ、この場へと現るのを許された。我が声を聴くがいい」
私は、「貴方は……?」と思わず声を絞り出すと、まるで頷かれ微笑まれたかのように光の揺れを感じ、光は言った。
「そう。我は神。汝の居た世界とは異なりし世界より参った神である」
私はその神聖さで心洗われ深い感動とともに、まるで初恋相手に告白をするよう祈るような思いで言った。
「神など存在しない」
「……何だと?」
光が、揺らめくのを感じた。だが私はあまりにも眩むその尊い眩しさに対して讃えるように言葉を続けた。
「唯物論者の私は、神のような形而上的な存在は、形而下たる物質とその諸法則から外れ存在は認められられない。故に貴方は何かしらの物質的な存在であるに違いない」
「………………え? …………えっ? なに……? ちょ、私、本当に……」
と動揺するような声を感じながら私は自らの信仰心を高らかに謳いあげる詩人のように言った。
「我々人類の科学はまだ始まったばかりだ。ニュートン物理学は万能ではなかった事が分かった20世紀前半な矢先で、新たな科学体系が推察されるが、故に貴方の存在を科学的に解明しそして理論建て、再現を行う事は『今』はまだできないだけで、少なくとも全知全能の創造主という狭義の『神』ではない」
「…………待って。待って! なにこの人間……え? えっ?」
「創造主、無から有を発生させ時も空間も超越する存在、全知全能で善なる存在が狭義の『神』とするならば、悪や不幸、苦しみの存在は、善に反した不完全な世界であり、またその他に、宗教的経験は主観的なもので……」
「ま、待って!」
そう私が述べようとすると「声」は焦るように、言った。
「……狭義の『神』かと言われると、実は私は私の世界から、つまり貴方から見て異世界から遊びに来た『神』で……。その、ちょっとこの世界の『神』にさっき貴方のこと頼まれちゃって……」
「よく分からないが狭義の『神』、つまり創造主だと主張しているのではないのかね?」
そう私が問うとものすごく慌てたように「な、な、そんな恐れ多い事言うわけないじゃない!?」と焦った声を上げるので、私は言葉を結ぼうとした。
「ならば君が何者か知らないが、『神』ではないな。元の世界に戻してくれ」
そう私は言葉を切り、相手の反応を待った。すると『声』は慌てるように言った。
「その……私は狭義の『神』じゃないけど、違う世界では『神』的な存在というか……。というか十分に『神』なのだけど、創造主様とは当然もちろん絶対的に違って、こう、『神』的ではあるけど、狭義の『神』じゃないというか……」
しどろもどろになり、不思議と上目遣いで見られているような気分になると、時間にして長いのか短いのか分からない沈黙のあとに、「声」がうめき声のような声色で、探るように続けた。
「……狭義の以外認めないの……?」
「つまり広義には神だと?」
私はそう続けると、全てを照らし貫くただ一色の光が、まるで「うんうん」と頷いた気がして、不思議な感覚に陥った。私は良く分からないがため息をつきながら続けた。
「しかしだ、異世界の『神』と主張するところの君は……ああそうだこの『声』の君、名前はないのかね?」
そうごく当たり前の事を求めると「普通に神なり女神と呼べばいいでしょ!」とグジグジと言いながら、ぼそっと「……『場』の女神フェンリィズ。私の世界ではリィズとも呼ばれてる」と呟く。
すると「仕方ないから受肉してあげる、やりにくいから」と付け足すように言い、光が収束していき……姿が構成され形を現わす。少し変わった服装である、かなり時代錯誤に見える18世紀のヴィクトリア王朝の令嬢などが着ていた服装をした、長いピンク色の髪を左右に結んで垂らし、少し強気に感じるエメラルドのような瞳の小柄な少女へと変わった。
「これで信じるでしょ? 見ての通り実在してるんだから!」
「確かに君自体は存在しているように私は認識している。しかしこの場は私の夢や幻覚の可能性がある。というより少女にしか見えない。どの辺が『神』なのだ?」と首を横に振った。
「だから君が広義の『神』かは別問題だ」と断りを入れる。
するとリィズは頬を大きく膨らませて、「じゃあ何が必要なのよ!」と叫んだ。
「広義の『神』の定義にもよるが、その定義を成り立たせるための全知や全能、最善などの様々なたくさんの諸定義や、初因や第一因なりエネルギーなり宇宙の始まりなりの、まだまだあるが様々な諸原理をまず明らかにしなければならず、それらを成り立たせるのに必要な諸定義と……」
「もーーーー!!!! もぉそこまで神の言うこと信じないって信じらんない!! もぉ分かったわ、納得するまで何でも聴きなさいよーー!! 私だって神だし、しかも私、『叡智』の神でもあるのよ? もう、私が全部貴方のその変な屁理屈破り返してあげるから、ドーンと来なさい!!」
そしてどれくらいの時間、そうしていたのかは、後から考えても地球時間で表現できないのだが、私は広義の『神』と主張するところのリィズに、信仰を告白するように「神」を否定し、そしてそれに対し異世界の「神」と主張するところのリィズがいら立ったように反論し、それに対しての疑問をぶつけては言い返されるという、とてもとてもとてもとても長い、しかしながら私の世界でのあらゆる事柄に対して説明できるくらいの範囲ならば、およそあらゆる事が明らかなる真理をおおまかながらつかみ、永遠に感じるような至福の時間が終わった。
「……なるほど。私の世界を説明しうる限界までは、分かった」
と、私は興奮を隠せずに、続けた。
「これ以上は私には認識不可能で不完全な理解ではあるが、それでも人知を遙かに越えた、もはや神の領域へと踏み込むと言わざるを得ないほど革新的な事実が明らかになった!」
私は拳を上に突き上げ仁王立ちし、全世界に宣言するように大声で叫んだ。
「これはまさにあらゆる分野における福音であり、真理と人類が言えるものはここにある、と言える革命的な知識を今、我々は得られたのだ!」
そう私は興奮し、そういえば、と思い出して後ろを向いて微笑んで言う。
「ああそうだ、忘れていたが、異世界の神と主張するところの君に感謝しよう」
そう心からの感謝を込めて丁寧に礼の言葉を言うと、広義の「神」だと主張するところの存在、つまりリィズは、うんざりするような声で言った。
「あ、あんた……こーーんだけ長々長々長々とエルフでも数世代は生きられるくらい、ずっとずっとずっと神様にあーだのこーだうーだの屁理屈を立てては散々説明させておいてその言い方って……良い死に方はしないわよ?」
と、神だと自称しているくせに、ものすごく恨めしそうに物騒な事を言う。
「それに、私はフェンリィズ! さっきの説明で分かったでしょ! その皮肉めいた、『異世界の神と主張するところの君』とか止めなさいよ!」
と怒っているようだったが、一転し息をのむような音が聞こえたと思ったらリィズが素っ頓狂な調子に響いた。
「って、そうだ、貴方もう死んでいるんだった、それが本題!」
そういうと、畳みかけるよう言った。
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