第20話 想定外 ※パトリック王子視点

「聖域の儀式が、これほど危険だとは聞いていなかったぞッ!」


 教会の責任者を呼び出すと、パトリック王子は今回の件に関しての説明を求めた。愛するサブリナが1週間も昏睡状態が続き、目覚めた後もベッドから起き上がれない状態だった。そんな彼女は今、回復に専念して静養中だ。そのせいで、王子の機嫌も悪い。


 聖域の展開も失敗して、そんなリスクの大きい儀式だったなんて知らなかった。


 それほど大事なことは事前に説明するべきだったのではないかと、教会の人間に激しく詰め寄るパトリック王子。


 教会の責任者である男は恐れつつ、王子に対して言い返す。自分たちも、失敗するなんて思っていなかったと。


「申し訳ありません。ですが、我々も予想外の結果だったのです。儀式を失敗するほど、聖女達の実力が足りていないとは思わず。むしろ、聖域を維持し続けることのほうが大変で……」


 だから、今まで聖域を維持してくれていた彼女が居れば問題なかったのにと男は思いながら、その事について口には出さなかった。彼女を追放してしまったのは、自分の目の前に居る王子だから。


「サブリナの実力が足りないだと? ふざけるな! お前達の準備が足りなかったから儀式は失敗したのだろうッ! なぜ、彼女がこんな目に遭わなくてはならないんだ!?」

「そ、それは……、申し訳ありません」

「謝罪など求めておらん!」


 パトリック王子は怒りに任せて、男を怒鳴りつける。教会の責任者は体を震わせて、顔を青ざめるばかり。


「失敗した責任を取ってもらう! お前達のせいで、サブリナは今も苦しんでいるのだから!」

「私のせいじゃありません! 私の他に、教会には問題を起こして逃げたやつも居ます! そいつらのせいで、実力のある聖女達が教会から居なくなって――」

「黙れ!! 今さら言い逃れする気か?」

「ひっ、ひぃいいい!!」


 パトリック王子は剣を抜いて、責任者の男へ突き付ける。王子の行動に怯えた男は逃げ出そうとしたけど、その前に王子が素早く動いた。彼は逃げる男を掴むと、床に引き倒した。


「ぎゃぁあああっ!!」

「この男を連れて行け。二度と、儀式を失敗させないように教会へ厳重に注意しろ。分かったな?」

「はっ、はい!」


 王子の命令で兵士達が倒れている男の両腕を掴む。そのまま彼を連行して行った。

静かになった部屋の中で、王子は大きく息を吐いた。それから、次の行動を考える。


 しばらくは、エルメノン王国の聖域は失われたまま。どうにかする必要があった。それから聖域について、もう少し詳しく知っておく必要があるなとパトリック王子は感じていた。


 前にサブリナから、少しだけ聞いたことがあった。けれども、こんなに危険なものなんて想像していなかった。もう一度、儀式を行ってもいいのだろうか。儀式を成功させるためには、何が必要なのか。


 エルメノン王国に聖域は絶対に必要だった。国の象徴だから。それを失ったままだと、民の心にも影響が出るかもしれない。そうなると、戴冠する前に自分の格に傷がつく可能性もあった。そうなってしまったら困ると、パトリック王子は焦っていた。


 教会の人間は信用できないので、身近な人物に話を聞くことにする。


 静養中のサブリナに話を聞きに行くと負担をかけてしまうから、彼女とは別で詳しい人物。結婚する前に聖域を維持する役目をこなしていた、先代の聖女だった自分の母親に。

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