第53話「兆家(ちょうけ)の親子、語り合う」
──
「
王宮で
「殿下の『不吉の太子』の名を消すことに
「父上のおっしゃる通りかと思います」
若い声が、それに応えた。
「
「不満か。昌括よ」
「恐れ多いことながら」
「気持ちはわかる。我が姉──太子殿下の母君が亡くなられていなければ、こうはならなかっただろうに」
兆石鳴の姉は、
彼女は国王に
そして、ちょうどその翌年に、病で命を落とした。
彼女が死んだのは、太子狼炎の1歳の誕生日のことだった。
彼女の死もまた、狼炎が『不吉の太子』と呼ばれている理由のひとつだ。
彼が生まれた日に、天に
それを見た学者が『狼炎殿下は不吉な星をもって生まれてきた』と告げたこと。
翌年の誕生日に、正妃であった母親を亡くしたこと。
すべてが、太子狼炎が不吉な人間であることを指し示しているのだった。
「だからこそ、太子殿下には『不吉の太子』の汚名を
兆石鳴はため息をついた。
「私は殿下が幼いころから、そう申し上げている。太子殿下の名を上げるために、
「太子殿下は武を
昌括は唇をかみしめて、
「ゆえに、
「実績か。だが、それは敵がいてこそだ。王都にいる我らには、どうしようもないではないか」
「どうして国王陛下は、父上に北の守りを任せてくださらぬのでしょう」
「ああ。私が北の守りについたなら、
『
だから、彼と彼の部下は、王都周辺の砦を任されている。
兆家は、
それゆえに国王は兆家を信頼し、王都の守りを任せているのだろう。
そのことは兆石鳴もわかっている。
けれど、
王都周辺に配備されている将軍が、
北の地で異民族と戦っている
それが、悔しかった。
「『
「必要なのは機会です。父上」
「機会さえあれば、太子殿下の関心を、我が兆家に取り戻すことができましょう」
「その機会がないから嘆いておるのだ」
「では、申し上げます」
昌括は、父石鳴の前で平伏した。
「この昌括は、常に各地の情報を集めております。その中で、気になるうわさを見つけました」
「申してみよ」
「北の地に流れるうわさです。『
昌活はよく通る声で、そんなことを告げた。
「北の地にいる友人から聞いた話です。彼は、こうも言っていました。『黄英深が
「ただのうわさであろう」
兆石鳴は、うっとうしそうに手を振った。
「そのようなものに踊らされてどうする。お前がそんなことでは困るぞ、昌括よ」
「踊らされるつもりはありません」
昌括は得意げな表情で、
「ですが、私以外のものが、うわさに踊らされることもありましょう」
「……なんだと?」
「うわさを止めようとするのは、河の水をせき止めようとするようなもの。いずれは
「昌括よ」
兆石鳴は鋭い目で、
「お前は一体、なにをするつもりなのだ?」
「兆家が功績を立てること。それによって太子殿下の『不吉の太子』の名を
「……しかし」
「黄海亮からの書状を処分するようなことは、もうできませんよ。父上」
「…………わかっている。だからといって」
「兆家は功績を上げるため、手を尽くすべきなのです。いずれはそれが、太子殿下のためになるのですから」
昌括はまた、平伏する。
床に額をこすりつけながら、昌括は、
「責任はすべて、私が取ります。父上はなにも知らなかったことにしてください。すべては国を守り、太子殿下の『不吉の太子』の名を消し去るために必要なことなのです。大いなる成果を上げて、兆家が、太子殿下をお助けするために」
決意を込めた声で、昌括はそんなことを宣言したのだった。
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