第12話

ローフ兄弟を仲間にすることが成功したため、兄弟を使い、軍内部の買収は順調に進むこととなった。同時に、立派な軍人の精子を手に入れることができたのでそれを触媒にして、私の卵子を使った赤ちゃんも産声をあげるのを待っている。一つ問題は次男は近況報告の役割も担うようになったこと。ただ、最初の夜這い以降、一度も襲う気配がない。私はちょっぴりさみしい。でも人形のソアが襲っても困るからこれはしょうがないか。

 ソアの知識を深めるために、1週間に1回はローフ兄弟と勉強会を開くこととなった。私の興味を示す知識はない方だわ、と思ってはいたのだが非常に勉強熱心であり、ソアにおすすめされた帝王学の本とかを夢中になって読んでいる。実際、ソアの評価も高くて、「自己肯定感を血筋で優れたものにしているだけでなく、それに答えようと戦う勇気に加え、戦う際の冷静な判断、現在の戦争の知識のほぼすべてをもっている。まさに軍隊のリーダーだね。他の軍の人と違って、博打や賄賂も控えめなところも自己管理ができる証拠。素直にすごい人たちだよ」、と。私が女帝になったら政治もある程度やれるレベルの人たちだから、必ず大事にしてあげな、とも言っている。評価厳しめの彼女にここまで言わすのだから相当なのだろう。実際、彼らには物理学や応急処置といった普段は使わないが、戦争では重要なスキルや、戦時体験なども余すことなく教えてくれるのである。当然、部屋に戻ったらソアが色々問題を作ってくれるのでまさか戦争未経験な私でも少しはマシになるとは思わなかったほど、軍事演習のときの銃の距離がなぜこれだけ必要かとか、風がこれくらいあるから艦の砲撃が照準をどれくらいずらすとか、深海の水の負荷はどれくらい重いからどれだけ頑丈にするのかが感覚的にわかるようになってきたのである。

 こういった新たな知識の広がりが楽しくなる反面、困ったこともある。貴族の女たちは嫉妬で勉強会の部屋に入る前に服を汚してしまおうと汚物の入った何かを投げつけるような下品な行為も現れたりするからである。毎回、機械人形で守ってもらい、なんとかなってはいるが、キョウルナラ国の品が下がりそうで嫌である。政治家たちはクーデターを起こすのでは、と懸念している。確かにいつか起こすが。ウヌがそのあたりはうまくまとめてくれて、女帝様も許可をした、ということになっているが、バレたときが地味に怖い。女帝とはまだ3回目の食事会も決まってないのにあまり評価を落としたくない。

 とはいえ、それを差し引いても非常に有意義な時間を過ごしていると私は思っているし、ソアもそう感じている。そんな新しい日常である日、新たな仲間が突然加わることになった。それは前触れもなく、突然部屋の扉を開いて入った女性のことである。

 「わたしも、その勉強会に参加させてください!」

 扉や壁に聞き耳を立てる貴族の女性は多くいたが、まさか堂々と部屋に入ってきた女性は初めてである。扉が開いた瞬間貴族の女性は逃げ出して、その女性、一人となった。

 「どなたかしら、貴族にしては不躾ですけど」

 女中であっても、だが。

 「スンアの妹、ダーコですわ!」

 「「「「「「はぁぁぁぁぁぁ!!!!?」」」」」」

 六人全員が口を揃えて、はしたなく叫んでしまった。そもそもスンアは大公の愛人、その妹とかただの敵じゃない! ソアも「ゲームの設定資料にもなかったのですが・・・」とバグり出してしまった。いや、このタイミングでバグってもホント困るから頑張って!

 ローフ4兄弟も口をパクパクさせている。こっちは、軍隊の長なんだから唖然としないでよ、肝心な時に暗殺されちゃうわよ。唯一まともに会話できそうなのが私だけなので答えることにした。てか、ソアはせめて武器もってないかチェックしなさいよ!

 「今回の不躾はまあ、許すとしましょう。そして、とても勉強熱心なのはいいことです。ただ、あなたはスンアの妹でしょ? 自分の立場的に参加できると思っていらっしゃるの?」

 もう相手もストレートに敵陣に侵入したのだからこっちもストレートに聞くしかない。

 「はい! 私はあの糞姉に一矢報いたいのです。我が家系は貧しい貴族であり、教養もろくに学べておりません。しかし、糞姉はなぜかイジュン皇子に慕われました。それにより、我が家系は急激に優遇されております。しかし、棚からぼたもちでは優遇があっても精神までは変わりません。むしろ、欲望が心を蝕みます。私は糞姉と比べられるようになりました。『お前は姉に比べてまったく』等、罵詈雑言ばかり言われる毎日です。しかし、糞姉を見てください。糞姉の評価を聞いてください! なんですかあのザマは。毎日皇太子と酒に入り浸って、表に出てみれば、喋ると兵隊のような罵詈雑言でつばを吐き散らす。曖昧な心得しかないから目をキョロキョロさせている。あれのどこが皇太子に受けがいいのか、全く理解できません。・・・それに臭い!!」

 「臭いは、多分イメージだわ」

 とツッコミを入れて私は久しぶりの大爆笑をしてしまった。ソアはその間に調子を取り戻し、「武器はなし。後、彼女は嘘をついていないです」と機械兵で答えてくれる。ローフ兄弟は、今度は私の大爆笑にどうしたらよいか困惑している。そんなカオスな状態は無視して、ダーコは話を続ける。

 「そして、私は気づきました。これはイジュン皇子がおかしいのだと。そして、私は知りました。毎日、あなた方がこの部屋で話していることを。決してそこらへんにいる貴族のようによろけた話ではなく、このキョウルナラ国の未来のために多くの知識を得ようとしていることを。そして、私は決めました。皇太子妃でありながら、愛されることもない。しかし、相手の間違いに屈することなく、常に光輝かんと努力する明けの明星と宵の明星を合わせたが如く、エリス様の元で励み、真の貴族となることを」

 ダーコはそこまでで演説を終え、エリスの前で跪く。私は感極まって泣いてしまった。ソアは「今度、天体学履修させる。明けの明星も宵の明星も同じ星だから」となかなか冷めたことを言う。もうそんなのどうでも良いじゃない。

 もしかしたらスパイかも知れない。だが、これだけの熱意を伝えられたら帝に将来なる身としては一切の疑いをなく、受け入れなければならない。ソアも「ま、その回答になるよね」、と許可をもらった。これにより、私の勉強会は7名になったのである。

 仲間が加わり、クーデターへの勢力が着々と準備が進む頃、政権の流れは変化の時を迎える。宮殿中に女帝がいよいよ危険だという知らせが届いたのである。こういった情報が一番早いのは女中である。現在、女中の下っ端の立場のダーコ(まさかの貴族でさえなかったという)が最初の出会いのごとく、部屋をバーンと開けて入ってきた。

 「お姉さま! 緊急事態です」

 仲間に加わって以降、私のことをダーコはお姉さま、と呼ぶ。正直、あまり嬉しくない。しかし、教養のない人間なので仕方がない。女帝の危篤の知らせをいち早く伝えてくれたダーコに一応は感謝をしつつ、女帝の部屋へと向かうこととした。

 使いの人たちは、私が廊下を駆け足で移動する様を見て、情報が何故伝わったのかあっけカランとして私を見る。一応、危険な状態については日に日に宮殿内でも話が飛び交っており、次の帝の座は誰かにベットして誰にゴマをするかと陰謀が溢れていた。ただ、現状ソアは『宇宙計画はともかくとしても、軍隊の買収、人形の数がまだ怪しいライン。できればまだ争いを起こさないほうがいいよ』とのこと。勉強会でも、オーフ兄弟の長男がチェスを交えて教えてくれて、それをダーコ含めて理解できるくらいには理解させられた。正直、女帝の死が思ったよりも早すぎたのだ。女帝の部屋に入ることを許可され、女帝は発作に襲われている状態だった。大公もスンア(いやスンア、おまえはなぜいる)も同席している。

 終油の秘跡が執り行われ、死者の祈りを2度囁いた後、周りには「今までの礼儀を欠いた振る舞い、意地悪な行動を許してほしい」といって、そのまま眠りについた。まだ、3度目の会合の約束も果たせてもらってない、と心に思う。そして、この人は敵だったか、友だったか、最後までよくわからない立場の人だったが、少なくとも私の人生にとってどんな立場であれ大切な人だったと、涙ぐむ。ソアはその間、私の頭の中で黙っている。

 人々には死を告げるときの決まり文句「末永く生きよ、とお命じになった」とだけ発表された。これだけで、国民全員が悲しみのどん底に落とされる。同時に、新皇帝の発表もなされた。

 「新皇帝はイジュン皇帝となります」

 血を優先した結果となった。私の女帝の道はまだ遠いようである。

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