第63話 4話 王冠と勇気(銀のスプーンに甘い想いを乗せて)
「はい、新さんあ~ん」
「・・・・」
「あ~ん、ですよ? 分からないんですか?」
目の前に差し出されたデザート(長めの)銀のスプーンにはクリームとアイスにラズベリーソースがかかっており、大変美味しそうで甘そうである。
新は目の前の魅力的な誘惑に顔をしかめていた。
確かに本日はいつもより気温が高く、尾行というなれない事と、疲れから甘くて冷たいものを体が欲するので今にでもそれにかぶりつきたい。
「おいしい~」
新に差し出していた銀のスプーンを耐えかけたのか、自身の口に運びミアは幸せそうな顔をする。
このやり取りが現在ので5回目である。
つまり、新は何を突き付けられているのか良く分からず、更に今何をしているんだっけ? という問いをこの目の前の能天気シスターに問いただしたい。
「新さん」
「なんだ?」
「私と間接キスは、お嫌ですか?」
分かっていてやっていたらしいことが、今の発言で発覚したかに見えたが・・・。
「嫌ですよぉ~、一緒に寝た仲じゃないですかぁ」
「オイこら、公衆の面前で何言ってんだ!」
周囲のテーブルには子供連れやカップルが居て、恐らく聞こえている人には聞こえている音量で会話しているので、耳には届いているだろうが、無視してくれているらしい。
その事に新は心底ありがたいと思いつつ、このポンコツをどうしてくれようかと思ったので。
「な、何するんですか!?」
ミアがもっていた銀のスプーンを奪い取り、自分でパフェを食べた後、そのまま次をスプーンにすくい上げると、そのまま彼女の口の前にそれを突き付けた。
「食べろ」
「え・・・いや、えっとですねぇ」
「いやいや、シスターミアさん、俺にさっきしてたじゃないかぁ。まさか恥ずかしいなんて言わないよなぁ?」
突然の新の反撃にミアが挙動不審になる。
事の成り行きをどうやら見守っていた周囲の人たちも、おお、やるねぇ、そうきたか・・・私たちもやりましょうアタナ・・・最後の声は無視しようと新は思ったが、おおむねどうやら新の意趣返しは感心されたらしい。
それと同時に、それを突き付けられているミアはと言えば、みるみるその純白の頬がほんのりと桃色に染まり、次第に誰が見ても顔が真っ赤だと言えるぐらいに赤くなってしまった。
それを見ていた周囲の女性陣は、可愛い、ナニコレ推したい! 可愛すぎる反応してるぅ、私もこうしたらあなた今夜は相手してくれる? 妙にさっきから最後の人だけが艶めかしい事を言っている気がする。
「で、食べるのか? とけるんだが」
「た、たた、食べてやってもよろしくてよ?!」
「キャラ変わってるぞ」
「いい、いん@△◇○xZう~!」
何か葛藤しながら言葉にし、最後は目を思いっきりつむりながら思いっきり銀のスプーンをパクリと咥えこんだ。
新とミアの初々しさに触発されたのだろうか。
「ねぇ、貴方。あ~ん」
「お、おい・・・はぁ。ママもあ~ん」
「いやん、あ~ん」
という声が聞こえてきたかと思えば。
「私たちも、最初の付き合い始めた頃に戻ったつもりでやって見ない?」
「面白そうだな。では、あ~ん」
「え、ヒロ君からなの?!」
などなど、多方面から甘い空気と、あ~ん、という掛け声とともに声にならない身悶えるような状況がおきており、新とミアはこれは自分たちが招いた惨事だとすぐに気が付いた。
「あ、新さん・・・・」
「これはミアが悪いぞ」
「新さん顔が赤いです」
「誰のせいだと・・・・」
30も後半だというのにこんな甘くて、甘々な体験をする羽目になるなんてと新は恥ずかしさで今この場から逃げ出したいと切実に思いつつも、そんな事をしようものならば背中に生温かな視線と、暖かな声が周囲から浴びせられるのは目に見えていたので、逃げ出したい衝動をグッとこらえる。
「で、あの二人ほっといて良いのか?」
途中までは朱音と和也を尾行しながら、半ば本来の目的を忘れて目をキラキラと子供のように輝かせながら回っていたミアのお守りをしなが付けていたのだが、休日という事もありひどゴミがすごく、お昼時になると見ごとに二人を見失ったのだ。
慌てても仕方ないとの事で、何故か近場のテラス席のあるお茶のできるお店で、お茶をすることとなった。
「お二人の事は見つける気になれば、見つけられますよ」
「ドユコト?」
「お願いします」
「それって、あそこじゃなくても有効なの?」
恐らくミアの言っているお願いとは、神様に祈りを捧げて何らかの答えを頂くことを意味しているのだろう。
しかし、新の見立てだとあの教会だから可能と思っていたのだがどうやら違うのだろうか。
「いえ、無理です。ですので、既に印だけつけてあるので、お祈りすると見つけられるようにしてあるんです」
「お前・・・抜けてるのに抜け目ないな」
「新さんが私をほめてくれてます、やったぁ。えへへへ」
新としては褒めているというより、多少皮肉が混ざった言い方だと思っていたのだが、本人がポジティブに言葉を取られているのならばそのままのが良いだろう。
ゆっくりとお茶を楽しみながらテラス席から臨む池と行きかう人々に目を向ける。
皆一様にテーマパークの雰囲気を楽しみ、どこを見ても笑顔であふれている。
中には長時間並んだためなのか、人ごみに負けたのか、父親がげっそりした顔をしていたり、不機嫌になっている顔をしている人もちらほら見て取れる。
その中には手を繋いで仲睦まじいカップルが居るけれど、都市伝説だと思っていたむすッとした顔をしながら手をつないでいるカップルもいた。
ありゃヤバいな、と思った矢先、女性が男性の手を振りほどいたかと思えば、小気味のいいパチン、という音ともに男が頬を平手打ちされている現場が目の前で行われた。
「あ・・・・」
新は思わず声を漏らす・・・漏らした後気が付いた。
「なぁ、朱音ちゃんじゃないのあれ?」
「へ? あら・・・えええええ、はぐれて50分しかたってませんよ!」
ミアがどうしようという様に慌てたあと、心底不安そうな顔で新たに詰め寄った。
「はぁ・・・休憩終わりだな。行くぞ」
「は、はい!」
どうやら出張ってきたかいはあるのだろうと、頭をかきながら新は、はぁ、とため息を一つ吐いてから気を取り直し。
「ミアは朱音ちゃんを。俺は和也君だ」
「分かりました!」
「あ、おい連絡どうやって取れば?!」
「胸元のペンダントに強く念じてください。私の事愛してるって!」
「出来るか!」
「えぇ~・・・・」
大変不服そうな顔を向けつつ、その場で立ち止まりミアが新へと視線を向ける。
早く行けよ見失う。そういいたいが、それよりも彼女にとっては重要なのだろうか、動こうとしない。
「・・・・・だぁ、分かった。祈るから!」
「はい♪」
声を弾ませながら、淡い笑みを浮かべたミア。
その笑みにドキリと心臓が跳ね、胸が高鳴るのを必死に気のせいだと思いながら新は和也の元へと向かうのだった。
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