第5話 奇妙な関係者

 ゴングがなる少し前、ラスベガスの試合開始を見守るの会場だけではなかった。


 遠く離れた地、日本でもこの試合に注目する者は多い。

 バベルトーナメント覇者の石森もそうであった。

  

 石森は、自身が通うジムの客室でテレビに向かっていた。

 側にいた会長が石森が問いかける。


 「わざわざジムに来なくても家で見ればいいだろう」

 「この試合の、チャンネル契約してないんですよ」

 「なら、契約すればいいだろう、何億か賞金が入ったんだから」


 「無駄遣いは出来ませんよ、ほとんど『投資』に回しましたから」


 「『投資』って、お前がか珍しいな、いったい何に投資したんだ」


 「まぁ、未来というか人材というか」


 石森の言葉を遮るようにドアがノックされ、扉が開かれる。


 「お兄ちゃん」

 その声に乗って勢いよく少女が石森に近づいてくる。


 石森に、妹はいないが、その少女は石森を兄と呼び慕っている、その少女は、徳田恵令(エレ)、小学5年生。

 

 石森が交通事故から救った少女であった。


 「エレちゃん、久しぶり、ボクシング頑張ってるんだってね」


 石森の顔も柔らかくなり、少女の頑張りを評価し少女もまた、嬉しく頷いた。


 会長のつられるように笑顔になる。 

 「徳田は、才能がある、チャンピオンも夢じゃないくらいにな」


 エレに気を使いながらも、画面にも意識を向けるが試合はまだ始まらずに、控え室の様子を中継していた。


 「石森さん、約束の方来られましたよ」

 ジムの関係者から、声をかけられ石森は眉をひそめる、誰とも約束はしてないはずだったからだ。

 そう伝えるより先に客人は、勝手に部屋に入ってきた。


 「久しぶりだな、元気してた」

 女子プロレスラー、メリッサは、笑顔を見せて敵意がない事を示した。


 「約束なんてしてないだろ、何でここにいるのが分かったんだよ」


 「なんとなくだよ、なんとなく、それより櫂はいないのか」


 「櫂に用事か、ならあいつは確か今日は父親の命日だから実家だよ」


 「なんだ、天上院のオッサン死んだの」


 メリッサは嬉しそうに座りながら茶化す、石森は面倒くさそうに答える。


 「そっちじゃない方だ」


 「だろうな、あのタヌキ親父は殺しても死なんだろうな」


 石森は話を居座るつもりのメリッサにため息をつく。

 「そう邪険にするなよ、今後の事を考えれば、この試合はお互い一緒に見守る方がいいんじゃないか」


 メリッサの目には、テレビに映る覇燕を捕らえていた。

 「『中国武術革命党』、本格的動き始めやがったな、『表向き』にも」


 石森はメリッサの表情が変わったのを見逃さなかった。

 

 情報共有は必要かもしれないと思い、そして、櫂への要件も気になったが、今は試合に集中する事を決め、視線をテレビに戻した。


 石森は、中国武術革命党の動きを、櫂から聞いていたが、その動きは『表』にも『裏』にも及び始めようとしてた事は、まだ知らなかった。

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