第12話 「悪いのは俺じャないッッ俺を受け入れなかったオマエラダロウッ!」


 神父がガラガラと鉄の十字架を引き摺って来る。

 だんだんと息が荒くなって来た俺は、過呼吸を起こしてパニクった。


「っフハァっフハァ! っフハァ!」


 ――俺が何したって言うんだよ……


 現世でうだつが上がらなくって、死んで……だから新しい世界では全く違う人生を歩もうって、そう思っただけじゃないか……普通の事じゃないか!

 お前らだって同じ状況ならそうするだろう! 


「ッフハァ! ッナニっ! が! いけないってッフハァ! 言うんだよ!!」


 くだらない話しでも聞いているみたいに、神父は小鼻をピクつかせながら、奥歯をゴリゴリと噛み締める。


「貴様の腐った根性など知るかぁ……この世界は完成されているのだ」

「ッフハァッふハぁッッ――」

「この楽園は神に赦された者だけの楽園!! これ以上、蟻の一匹、塵芥ちりあくたの一つですらも! このヘルヴィムが踏み込ませねぇ!!」

「アァ……ァァああ!!」

「ぁぁあ神の定めた!! 秩序の為にぃぃイイ!!!」


 ……この世界も俺を拒絶するというのか!? 

 俺はどの世界でも!! 

 山田拓郎でも、ケインでも!!

 なんで俺ばっかり!! いつも俺ばっかりどうして!?


 なんで……なんでなんでなんでなんでなんで!!

 どの世界でも俺は認められない!!!


 悪いのは俺じゃないのに!!

 いつもいつもいつもいつも周りの奴らが悪いのに!

 俺は一生懸命やってるのに!!



 息を止めた俺は、顔が真っ赤になる位に力みながらその掌を神父に向ける。


 そして唱えた――


「――ヒィイイトLv1!!!」



 ――ズッギャアアアアアアアアアアンンッッ!!!



 俺の手元から全てを焼き尽くす、炎の波動砲が噴出する。


 世界最強の魔力で、誰も叶わない、この俺の全力の一撃で!


「ゥゥウウギィいいぃああ!!」


 炎の中で神父の悲鳴が聞こえる!

 俺は魔力が許す限りの全力で、この世界に風穴を開ける位のつもりで、最低最強の魔法を放ち続けた。


 村人達が炎の中で動かなくなっていく神父を見守っている。

 ちくしょう、どっち応援してんだクソ共が! 次はお前らを燃やし尽くしてやるからな!


「フゥウ!! フゥ!!」


 ずっとずっと念入りに、俺は魔力を解き放ち続けていた。もう生きている者はいないだろう。神父の声も、もうずっと前にかき消えている。


 MPをすっからかんになるまでヒートを放ち、やがて炎が消えていく。


 ザマァみろ! 俺に逆らうからだボケwww!!

 強い奴の言う事を、弱い奴は聞くしか無いんだ!

 間違ってる奴等を潰すだけの力が、今の俺にはあるんだ!!


 やがて炎が消える。


 そこにあるのは黒焦げの道筋。それ……と…………



 ――――あ!!?



「……。ちょおうど……マッチを切らしててよぉ」


 そこに黒焦げになった神父が立っていた。


 全身から煙を上げて、ギラギラとしたその瞳を光らせて

 その口元で、丸焦げになった煙草がポロリと落ちていく。


「旨かったよぉ……あぁ、本当に……愛娘のマリィが作った……アップルパイの次にだけどよぉ」

「ひぉえあ……ぁあ、なんで、にゃんでッ!」


 なんで生きてる!? なんで生きてるんだこの男!?


 MPも無い俺は、情けなく尻もちをついて震える事しか出来なくなる。

 

「チートな……筈だろ? 俺は最強で、無敵なチートの……魔王だって、誰も耐えられる奴なんて!」


 神父は赤い目をして、よれよれと俺に歩み寄ってくる。

 ズルズル、ズルズルと引き摺った十字架の道筋を残して。


「だって、だって神様が俺に力をくれたんだ!! 負ける筈なんて無いんだ! やれやれって言いながら、俺は村に帰って、それでみんなからもてはやされて、女の子からモテモテで、楽勝人生で幸せに!! そうじゃなきゃおかしいんだよ! 不公平だ! フコウヘイだぁああ!!」















「……だったら、今度は神でも恨んでろ」











 ――――――ぁ


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