桜日和

 川を挟んだ向こう岸に満開の桜の木が並んでいる。

手前では多くの人が飲めや歌えの大騒ぎであり、ボクの配信が聞こえるかがちょっと心配だ。

上手いこと満開の桜が映るポジションにカメラを陣取ってもらって配信を開始する。


「こんにちわ~ん、ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わ~ん」

周囲の喧騒に負けないように大きく挨拶から入る。


◯〚こんにちわ~ん〛

◎〚桜満開っぽいけど、どこ?〛

◆[お、もしかして、桜氾濫か?]

△[そんな時期かぁ、桜の木が大挙して並んでるのは壮観だよね]


ここの花見について知っている人も何人かはいるみたいだ。

「そんなわけで、今日はみんなと有名な桜氾濫の花見配信です」


❤〚おー!〛

△[よし、酒持ってこよう]

◆[現地合流は王都からだとちょっと遠いな……]


「ここでは春になると魔の森から桜のトレントが日光浴に河原にあふれてくるんだそうです。

それが魔物氾濫スタンピードみたいってことで、桜氾濫って言われるらしいですわん」


◎〚へー、魔物氾濫スタンピードみたいってなにそれ怖いんだけど〛

◯〚魔物ってラノベの話?〛

❤〚そもそも桜のトレントって他にも種類があるの?〛


「今日は魔物にも詳しい賢者くんも来てるので、その辺は説明してもらいましょう。

ってことで、今日のゲストは賢者くんです」

実は今日は一人ではないのだ。賢者くんに自己紹介をしてもらうよう促す。

「あー、わん太さんにカメラマン兼案内役として連れてこられた賢者のケントです。

ラーメンセットに天津飯もつけてもらった分は働こうと思います」

カメラマンなので画面には映らず、声だけの出演になる。


◇〚天津飯で働かされる賢者とはw〛

▽[え、ケント様本物? ちょっと現地向かうわ]

◆[賢者くんって賢者様なの草]


賢者くん、実は有名人なのかな?

いつもお金が無いってことでラーメンを奢ってあげてるんだけど。

「まず、トレントの種類は元々は区別がなかったのですが、何代か前の勇者が桜恋しさに色々――」


―― ドッ、ドッ、ドゴーン!


◯〚なにない、なんか火柱見えた〛

◆[ファイヤーボールか?]


複数のファイヤーボールが川を超えて対岸に飛んでいくのが見える。


「桜のトレントの中に杉のトレントが混ざってたみたいですね」

「杉のトレント?」

「杉のトレントは一級殲滅対象の危険魔物指定です。見つけたら必ず倒さねばなりません」

そう言うと、賢者くんは杖を取り出して一振りした。

何本かの炎の矢が現れ、川の向こうへと飛んでいく。


▽[賢者様のファイヤーアロー!]

◆[おおー、流石]

◎〚いやいや、どんな威力だよ〛


あっという間に殲滅されたみたいだ。

「杉のトレントはその花粉によって周辺都市の機能を完全に麻痺させたと言われています。

また、そんな事があったため、トレントの品種改良等、植物系魔物の取り扱いには厳重な制限が掛けられるようになりました」


❤〚なんか、目が痒くなって気がする〛

▽[草]

◆[ずずっ、うむ、杉トレントは殲滅すべし]


「とりあえず、無事に杉のトレントも倒せたようだし、ゆっくりお花見をするよ。

ほら、花見弁当も重箱のやつを用意したんだ。賢者くんも食べて食べて」

レジャーシートの上に重箱を広げて並べてゆく。

「おぉー、わん太さん流石です。一生ついていくっす」


◯〚www〛

◆[賢者様が三下になってるw]

❤〚おいしそー、それどこのやつ? 私も同じの食べたい〛


お弁当を頂きながら満開の桜を見る。

時々上がる火柱も風流なのかもしれない。


―― 本日の配信は終了しました……


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