輪廻転生したら異世界最強の魔法使いなのだが。
一ノ瀬 修治
第1話 輪廻転生したら異世界でした
ここは輪廻を司る神が在る所。
この物語の主人公シェリアスは生前、高校生という若さで事故死した。
あれは高校生活最後の夏休みであった。シェリアスは友達に誘われ、海へ行ったのだ。約一年ぶりの海水はとても気持ちが良く、一緒に来た友達と時が過ぎるのを忘れて遊び
「すまねー! 俺もう帰るわ」
海から家までは頑張って走れば、門限を過ぎずに家へ着く。シェリアスは急いで海水をタオルで吹き、水着からTシャツへ着替えて走って家まで向かった。
そして、海からかなり離れ家まであと少しのスーパーマーケットまで着いた時であった。向こうで信号機が点滅しているのが見えた。シェリアスが今いる所から全速力で走ったとしても間に合わない。仕方なく横断歩道の前で立ち止まり、もう一度スマホの電源をつけ時間を見た。
『6:59』
門限まで残り一分であった。ここから信号を無視して走れば、ギリギリであるが間に合う。だが、信号は今は赤である。無視をすれば交通違反になるが、シェリアスは連絡手段が無くなる方が嫌だった為か、赤信号のまま横断歩道へ飛び込んだ。
『ドンッ』
何か重いものがぶつかる音がした。人というものは、何かと何かを天秤に掛けられた時、必ず自分へ分がある方を選ぶ。シェリアスも、門限を過ぎてスマホを没収されるか、信号を無視し家へギリギリ着く事を天秤に掛け、後者を選んだ。その結果、横断歩道へ飛び出した瞬間、立ち止まっていた所からは死角になっていた右の方から、一台の大型車が突っ込んできた。シェリアスは勢いよく弾き飛ばされ、その場で脳挫傷により命を落とした。
その日のニュースでは『高校生 帰宅途中に轢かれ 死亡』といった内容ばかりであった。せっかくニュースになるのであれば、もっと良い話題で出たかったものだ。母や父は、当然ながらシェリアスへ数え切れない愛情を注いでいた為、大変慟哭した。
そして、シェリアスは死した事で三途の川を渡り、これから輪廻転生をする所なのだ。輪廻には、地獄道と餓鬼道、畜生道そして、修羅道と、以前のシェリアスがなっていた人間道、そして天上道の六つがある。地獄道と天上道とは皆知ってるであろう、地獄と天国の事だ。餓鬼道は常に餓えへ苦しみ、畜生道は人間ならざるものへ生まれ変わる。修羅道は生前、罪を犯したもの同士でいたぶり合う所だ。シェリアスは生前、信号無視をして死した為、恐らく修羅道なのではないかと推測する。
「結構死んだ人多いんだな」
シェリアスの前にも、かなりの人数が並んでおり、それは長蛇と化していた。待っている間、シェリアスは生きていた頃を回想する。小学の時は大変、手が掛かったと母から言われていた。中学へ進学してからは友達の量も増え、夜遅くまで遊び回っていたこともあった。だがそれでも、母や父にはきちんとお手伝いなどといった孝行をした。高校へ進学してからは、真面目に勉強へ打ち込み、何度か門限は破ってしまった事はあったが、基本何事も家のルールには従っていた。友達とも遊びに行ける範囲も広がり、バイトといった社会見学も出来るようにもなった。その働いたお金で、母や父へ服などもプレゼントしていた。そして、若くして死んだ。
「我ながら短かすぎる生涯だったな。欲を言うなればもっと人間として居たかったが、自業自得か」
そう生前の事について回想していると、前に並んでいた人数はかなり減っていき、残りシェリアスの前には十人程であった。
「お前はもう一回人間道してええで。お前は……ダメ、畜生道。お前は修羅道、お前も修羅道」
残り六人。輪廻を司る神はどこか適当に感じられた。彼は、日本でいう所の袴を着て大きい椅子から睥睨して転生先を決めている。
――残り三人。
――二人。
――一人。
そしてシェリアスの番が来た。輪廻転生はとても緊張するものだ。
「お前はー、もう一回人間道でええで」
どうやらもう一度人間道らしい。そう言い渡され右に曲がった。真っ直ぐ行くと、人間道と書かれた大きな扉があった。隣には餓鬼道と修羅道の扉もあり、それぞれに死した者が転生せんとして入っている。シェリアスも扉を開け、そこへ入った。再び人間になった暁にはもう少し真っ当な人生を送ろうと思った。
そして、扉をくぐると突然、目下が明るくなりシェリアスは眩しさのあまり目を閉じた。
――鳥のさえずりが聞こえる。シェリアスは再び目を開けた。するとそこは生前の国、ではなく、西洋風の建物が連なった町であった。人々は腰に剣を差している者、魔法使いのローブを来ている者や商人などで大変賑わっていた。
「え? 人間道ってまた赤ちゃんからじゃねーの? しかもここどこなんだ?」
そう、シェリアスは人間道は一から赤ちゃんとして生きていくものだと思っていたのだ。そしてシェリアスが以前生きていた世界とは違って、転生した世界は、
「中世ヨーロッパか? もしかして、異世界転生? 最高だ! ここで幸せに過ごせって事なのかな。そういう事か。楽しむぞ! 神様ありがとう!」
大声で神に感謝を言っていると、周りの人に白い目で見られた。シェリアスは少し顔を赤らめ俯く。すると、
「あの、少しバジェス宿屋までの道を教えて頂けませんか? 私ここに来たばかりで」
肩を叩かれ振り返るとそこには、薄い黄緑色のショートヘアーをし、白い肌にパッチリとした目をした少女がいた。恐らく彼女はシェリアスと同じ年齢程であろう。彼女は転生してきたかは分からないが、シェリアスと同じくここに来たばかりらしく道を問うてきた。
「あ、すみません。俺もまだこの辺のことに詳しくなくって」
「そう、ですか。すみません」
シェリアスが教えられないという事を伝えると、彼女は分かりやすくガッカリとし、暗い声音でそう言った。知っていれば親切に教えてあげられたのだが、大変申し訳ない事だ。彼女は一礼し、再び歩き始めた。
「ま、待ってくれ! 場所は分からないが何か手伝わせて欲しい!」
シェリアスは彼女のお淑やかそうな容姿に一目惚れしたのか、『何か手伝わさせて欲しい』と引き止めた。面食いとやつだ。すると彼女は歩みを止めて振り返った。
「は? 宿屋の場所も知らないやつに何が出来るの? 意味わからないこと言わないでよ」
まるで先程とは別人のような口調に変わりそう言ってきた。目付きもとても人を見るような目ではない。ギャップが凄すぎる。
「え? こっわ! そこをなんとか! 少しでも役に立ちたいんだよ」
シェリアスは一瞬、大変驚いたが相も変わらず彼女へ懇願した。それ程、彼女の容姿は美しかったのだ。今までに見た事のない様な綺麗な髪、華やかな服、華奢な背中。一目惚れだ。
「――。そこまで言うなら勝手にしなさい。あと、そのいやらしい目やめて。きしょい」
相変わらず辛辣である。が、着いて行くことを許可してくれた。口調は悪いが中身はとても優しそうである。シェリアスは歩き出した彼女の隣へ並び、顔をちらちら見る。
「何よ。助け呼ぶわよ」
「違う! すまねぇ。ねえ、名前教えてくれない? 関係を円滑に進める為にはお互いの名前くらい知っておいた方が良いと思うし」
シェリアスは最もだと言うように自信を持って彼女へ名前を問うた。
「サクヤよ。あんまり親しげに呼ばないで」
サクヤ。とても素晴らしい名前だと思った。
「俺はシェリアスだ。そう警戒せず仲良くして欲しいよ! よろしくね」
お互い社交辞令をし、再び歩き始めた。サクヤは宿屋の場所を知りたいと言っていた。二人ともその場所は知らない為、誰かに聞く必要後ありそうだが、
「みんな忙しそうだなー」
道歩く人は皆、忙しそうにしていたり楽しそうに会話したりしていて、大変話しかけにくい。サクヤも同様であった。
「弱ったなー、どっか飲食店で聞いてみるか?」
道にいる人に聞けないとなると、どこか店へ入って店員に聞いてみるくらいしか思い浮かばない。サクヤへそう問うてみた。
「ばっかじゃないの? 何も頼まず道だけ聞いたら迷惑すぎるわよ。私お金は二、三日宿泊する分しか持ってないし、あなた持ってるの?」
最もである言い分だ。何も注文せず店へ入って道だけ聞いて行くなど、迷惑にも程がある。だが、そうなると道を歩いている人に聞くぐらいしかない。
「いや。俺も持ってない。お、あそこに座っている人に聞いてみるか?」
当然ながらシェリアスもこの世界へ転生したばかりである為、お金など一銭も持っていない。一文無しの代表だ。そこで、道の真ん中のベンチへ腰を掛けていた紫根の長い髪の毛に猫耳を生やした少女へ声を掛けることにする。
「あの、すみません。道を伺いたいのですが、良いですか?」
「はい! 良いですニャ」
『ニャ』? 猫になり切っているのだろうか。声も高い方で可愛らしい。
「バジェス宿屋までの道知ってますか?」
「はいですニャ! 着いて来るですニャ」
猫耳の彼女は快く教えてくれるらしい。大変助かった。彼女は立ち上がり、手招きをして歩き始めた。
「無事着きそうだな。良かったぜ! な! サクヤ」
そうニコニコし、サクヤの肩へ手を掛けそう言うと彼女はこちらを睨みだけで殺せそうな目で見てきた。怖気付いたシェリアスは萎縮しきって猫耳の少女へ着いて行く。日はちょうど真上に来ており、昼であろう。気温はそこまで暑くなく、涼しいくらいだ。
「にしても凄い街の景観だなー。やっぱり転生するなら中世ヨーロッパ感のある異世界が良いと思ってたんだー俺! そして隣には美しい髪の美少女……たまらない」
シェリアスは変態丸出しの発言をした。もうサクヤの恐ろしさに慣れたということだろう。
しばらく歩くと、大きな溝に綺麗な水が流れており、その上にお洒落な橋が掛かっている場所へ辿り着いた。どうやらその橋を渡るようだ。時刻はもう日が沈み掛けており、とても趣がある。
「ここ真っ直ぐ行った突き当たりにありますニャ!」
猫耳の少女がそう言った。確かに突き当たりには他の家より一回り程大きな家があった。恐らくあれが宿屋であろう。
「ありがとうございます。あの、御名前伺ってもよろしいですか?」
サクヤが猫耳の少女へ名前を聞いた。猫耳の少女はニコッと可愛らしく微笑み、
「テトラと申しますニャ!」
猫耳の少女の名前は『テトラ』と言うらしい。良い響の名前だ。
「テトラさん。道を案内して頂き、ありがとうございました! またどこかで会えることを願ってます」
サクヤはテトラへ一礼し、再び歩き始めた。テトラへ礼を言う時の笑顔は大変華があった。
宿屋バジェスへ着くと、
「ありがとう。無事たどり着くことが出来たわ。あなたもお体に気をつけてね」
サクヤがシェリアスを憂う言葉を投げ掛けた。
「あの、厚かましい事は重々承知なのだが、俺も今夜泊まるとこがなくてだな……その、一緒に泊まらさせてくれないだろうか?」
シェリアスがとても申し訳なさそうにサクヤへお願いをした。そう、シェリアスは今日こちらの世界に転生してきたのだ。その為、泊まる所など毛頭ない。
「仕方ないわね。言葉だけでお礼を言うのは少し気が引けたの。一緒の部屋で良いのなら」
サクヤは意外と快く許可してくれた。本当は『はぁー? 何アホみたいなこと言ってんの?』と罵られる覚悟くらいはしていたのだが、予想が外れて大変良かったと思う。
サクヤへ礼を言い、宿谷の中へ入った。中は、木目の壁が映える綺麗な場所であった。もちろん、香りも木の香りがしてとても落ち着く。受付には気品漂う男性がいた。その男性とサクヤは話し込んでいる。恐らく、部屋についてと言ったところであろう。
話し終わったのか、サクヤは振り返った。手元には鍵を持っていた。どうやら、無事に泊まれそうである。本当に感謝恩礼である。
部屋の前へ着き、ドアを開けると中からも木の大変良い香りが漂ってきた。とてもゆっくり眠れそうだ。サクヤには感謝してもしきれない。
「そうね、私はこっちで寝るからあなたは、こっちに布団引いて寝ると良いわ」
そう言い残しサクヤは疲れているのか、荷物を枕元へ置いて布団へ入った。シェリアスも、電気を消し同じく布団へ入り目を瞑った。この日からシェリアスの異世界生活は始まったのだ。
――輪廻転生したら異世界最強の魔法使いなのだが。
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