その35。やらかす執事と喜ぶ悪役令嬢
お久しぶりです。
ゆっくり更新していきます。
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俺は心の中でそんな事を思いながらも、引き攣った笑みを浮かべて賞賛する。
「す、素晴らしい魔法ですね……さすが王族でも随一の天才であらせられるレオンハルト王子殿下ですね!」
「そうだろうそうだろう! 貴様は自分の立場が分かっているじゃないか!」
そう言って王族とは思えないガハハ声で笑う。
しかし、ウチのお嬢様はそれが不服らしく、これでもかと眉を顰めていた。
俺は必死にバレないように耳元で囁く。
「シンシア様っ、マジで顔を顰めるのはやめてくださいっ! 此処で不利になるのはシンシア様なのですよ!?」
「……でも大した事ないじゃない。セーヤは兎も角、私よりも圧倒的に弱いじゃない」
いや、俺は神から教えてもらった知識あるし、貴女が真の天才なだけですよ。
彼女は周りに俺しか比較対象がいないせいか、イマイチ自分の才能に気付いていない様子。
「……何だシンシア。不服そうだな?」
はい、バレた。
俺は自分の顔が引き攣っていることを自覚しながらゆっくりと振り向く。
そこには不愉快げに顔を顰める王子の姿が。
俺は必死にどう誤魔化すか考えるが、それよりも先にシンシア様が声を発した。
「———はい不服です」
「ほう……? 一体何が不服なのだ? シンシアは俺の魔法を見ていなかったのか?」
先程俺に褒められた事で調子に乗ったレオンハルト殿下は手に火を発現させて笑みを浮かべる。
そんなレオンハルト殿下をシンシア様が鼻で笑う。
「いえ、見ていましたよ。しかし、あまりにも脆弱でしたので、よくこの程度の実力でセーヤに喧嘩を売れるなと思っているだけです」
「なっ!?」
「し、シンシア様!?」
突然の喧嘩上等とも言えるシンシア様の言葉に俺もレオンハルト殿下も思わず声を上げてしまった。
そしてその言葉を聞いた周りの生徒達は俺達に更に注目が集中する。
やばいやばいやばいやばい……このままじゃマジで洒落にならないことになる……シンシア様のお父様に殺される……!!
俺は必死に考えるが、その間にもシンシア様とレオンハルト殿下の言い合いが続く。
「シンシア、貴様は俺の婚約者だろう!? 何故こんな執事風情の奴の肩を持つ!?」
「肩を持つのではありません。私はただ事実を言っているまでです」
「こ、この執事が俺よりも強いと貴様は言うのか!? 王族でも随一の天才と言われるこの俺を!?」
「勿論そう———」
「シンシア様、少し黙っていてくださいっ! レオンハルト殿下、取り敢えず私の魔法を見てから判断してくださいっ! シンシア様の話は忘れてもらって大丈夫ですので!!」
流石にこれ以上見ていられなかったので、2人に割って入り、俺が早く始めることにした。
俺はこの会場にいる全ての生徒に見られながら、魔法試験の場に立つ。
ふぅ……さて、どうしよう。
俺は今更になってどうやってこの事態を抑めるか考える。
本来ならば皆の実力を確認して成績が中間程度になるように手を抜くつもりだったが、今の俺はレオンハルト殿下に負ければ職を失い、女神が言ったように死んでしまう恐れがあるので負けるわけにはいかない。
あぁぁ……一体俺はどうすれば良いんだよ……ッ!
シンシア様もあそこまでムキにならなくても良いのに……。
そこで俺は周りの注目が俺に集まっている事に気付く。
殆どが好奇の目を向けているが、チラッとレオンハルト殿下を見てみると、殿下からは殺気や怒りの籠った視線を向けられ、シンシア様の方をチラッと見ると、
『絶対に手を抜くんじゃないわよ。手を抜いたらお父様に言うわ』
と口パクで俺を脅しながらも微笑みを浮かべている。
そこで俺はもはや手を抜いてやり抜くことは出来なくなってしまった。
「それでは1022番、セーヤ君、魔法を発動させてください」
「はい……」
俺は覚悟を決めて、火魔法を発動させる。
「———《火球》」
勿論手は抜かず。
瞬間———直径3メートル程の火球が現れる。
「———な、何だこの魔法は!?」
「っ!?」
レオンハルト殿下が驚愕に目を見開いて驚きの声を上げ、ナタリー様も何も言わないものの予想外だと言わんばかりに驚いていた。
そして俺の魔法を見た生徒達もザワザワとし始める。
「な、何だよあれ……」
「アイツ、俺達と同い年か?」
「あんな馬鹿でかい《火球》なんか見た事ないぞ……」
「俺の家庭教師よりもデカいんだけど……」
俺は周りの生徒達の困惑の声を聞きながらも、魔法を放つ。
———ボォォオオオオドガァァァアアアンッッ!!
火球はミスリルの板を飲み込んで溶かし尽くした後、その後方の煉瓦作りの壁をぶち壊して空へと打ち上がって爆発。
『ドガンッ!!』と花火が打ち上がる時と同じくらいの音を響かせた。
「……どうですか、レオンハルト殿下」
俺は恐る恐るレオンハルト殿下を見ると———そこには驚きの余り固まった殿下が口をパクパクしている。
その後ろにいたシンシア様が此方に笑顔を向けてサムズアップしていた。
更に口パクで『よくやったわ! 流石私の執事ね!!』と喜んでは、レオンハルト殿下をザマァとでも言う風に冷ややかな目を向けていた。
俺はそんなシンシア様から目線を外し、レオンハルト殿下と同じ様に口をパクパクして声も出ない様子試験監督や試験官に、
「……本当に申し訳ありませんでした」
取り敢えず全力で謝った。
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