おまけ①「金目の将烈」
我楽多
おまけ①「金目の将烈」
おまけ①【金目の将烈】
我らが上司、将烈という男の話をしよう。
将烈、通り名は”金目の将烈“という。
普段は黒のカラーコンタクトをつけているため目立つことはないが、本当の彼の瞳は金色をしている。
なぜカラーコンタクトをつけているかと言うと、本人いわく
「金目の自分を見るのが気持ち悪い」
からだというが、本当のところどうかは不明だ。
なぜ金目なのかも分からないが、生まれ付き金目のようで、両親は共に茶色の瞳だったというから不思議なものだ。
そんな将烈の普段の格好というと、黒のワイシャツに黒のネクタイ、真っ白な手袋、ズボンも黒で靴も黒だ。
煙草を吸っている姿は、軍人役人とは思えないほどやさぐれている。
将烈と言えば、犯人や敵に対しては残酷、非道、冷酷だと言われているが、部下や仲間に関しては全く違う。
しかし、彼のことを知っている者は、きっと口を揃えて言うだろう。
彼は、敵に対しても器はでかい、と。
勝手に作りあげられた虚像の男を演じることもなく、良い人を演じるわけでもなく、彼と言う人間性がでかいのだ。
さて、そんな将烈のことで、彼の部下は1つの疑問を持っていた。
「いつ寝ているのだろうか」
夜になれば寝ているのかと思いきや、そうでもないようで。
仕事人間というほど仕事が好きなわけでもない彼は、夜通し仕事をするなんてこと、地球がひっくり返ってもやらないと言っていた。
しかし、朝起きても彼は部屋にいて仕事をしており、夜寝るときにも何かしら作業をしているのを見ている。
睡眠時間が短いのだろうか。
そうだとしても、昼間一睡もせず、欠伸もほとんどせず、彼の身体は大丈夫なのだろうかと心配している者がいる。
「波幸」
「はい」
「・・・さっきからなんだ」
「何がでしょうか」
「視線を感じる。何か用があるのか」
「いえ、用と言うほどでは」
それは、彼の直属の部下、波幸である。
彼のことを誰よりも信頼し、尊敬しているであろう波幸。
いつも彼のことを見ている波幸だからこそ、そんな心配があるのだ。
将烈に頼まれ、波幸はとある人物のもとへと向かっていた。
その人物に会うのはちょっと面倒というか、波幸としてはあまり会いたくはないジンb通だった。
「火鷹・・・」
「なんだよ波幸じゃん。将さんに何か言われたわけ?」
会いたくなかった男、もう1人の直属の部下である火鷹を目にすると、波幸は自然とため息を吐いてしまった。
「一昨日出した報告書に不備があった。確認してもう一回出すようにって」
「えー。なんか不備なんてあったっけ?将さんてば相変わらず仕事早いから困っちゃうよ」
将烈のもとに届く報告書は、毎日山のようにある。
それは将烈たち自身のものもあれば、上層部から嫌がらせで送られてくるものがほとんどと言っても良い。
それでもこうして仕事が早いのは、将烈なりの負けん気もあるのだろうかと聞いたことがある。
嫌がらせで送ってくるような書類や報告書など、後に回しても良いのではないかと言ったとき、将烈はこう答えた。
「優先順位でやってるだけだ。その代わり、内容や書き方、誤字脱字なんかのミスがあれば赤ペンで直して送り返してやるだけだ」
そういうことをしているから、余計に嫌がらせを受けるのだろうが、将烈からしてみれば、そんなことどうでも良いらしい。
とにかく仕事としてやらなければいけないことであって、気に入ろうが気に入りまいが、それは二の次ということだ。
「波幸、なんか悩み事か?」
「へ?」
「顔に書いてあるぜ。お前、本当に分かりやすい性格してるよな。俺に相談してみな。なんだ?女のことか?」
うりうりと、肘で波幸のことをツンツンつついてくる火鷹のことを睨みつけてみるが、この男にはそんなもの無意味のようだ。
ただ楽しそうにケラケラ笑っている。
「実は・・・」
「将さんがいつ寝てるか?なんだそれ?そんなことか」
「そんなことって。将烈さんは誰よりも働いてるから、身体が心配なんだよ。食事だってまともに取ってるところ見たことないし」
「そう言えばそうだな。コーヒー飲んでるとこはしょっちゅう見てるけど。あれじゃね?飯食わなくても平気な人とか。てか本人に聞けばいいじゃん。お前いつも一緒にいるんだし」
「・・・聞けたら苦労しない」
「何、お前ヘタレなの?実はヘタレっていう設定なわけ?」
「なんでそうなる」
「だって将さんにいつ寝てるの?飯は食ってるの?って聞くだけだろ?なんでそんなに構える必要があるんだよ。世間話じゃんか」
「・・・なんか、将烈さんのプライベートを聞いていいのか分からない」
「・・・ああ、なんてーか、馬鹿?」
「ブン殴りたい」
「俺が勝つけどね。だってよ、別に良くね?普通に聞けよ。確かに将さんのプライベートってかプライバシーってか、そこに突っ込んで良いのかは正直俺も分かんねえけど、聞いたところで怒る様な人じゃねぇだろ。答えたくなければ答えねぇだろうし、意外と答えてくれるかもしれねぇし?」
「・・・そうかなぁ」
「あのよ、そうやってウジウジしてるくらいなら、当たって砕けろだよ。もう言ってること色恋ごとだけど、とにかく会って話してみるしかねえだろ。なんなの?俺はどうすればいいわけ?」
「・・・うん。聞いてみる」
そう言うと、波幸は眉間にしわを寄せながら火鷹の部屋を後にした。
残された火鷹は、いつもとは違って頼りない波幸の背中を眺めて、後頭部をかいていた。
火鷹から言われたアドバイスを胸に、波幸は将烈の部屋へと戻ってきた。
普段通りノックをすれば、部屋の中からは将烈の気だるそうな返事が返ってきて、静かに部屋に入って行くと、将烈は書類と睨めっこしていた。
「しょ・・・」
将烈さん、と名前を呼ぼうとしたところで、将烈がいきなり勢いよくガシガシと髪の毛を乱しだした。
常に綺麗に整えられているわけでもないが、無造作ながらにもある程度清潔さを保っていた髪の毛は、無残にもあちこちを向いていた。
「ダメだ。はかどらねぇ。ちょっと散歩行ってくらぁ」
「お気をつけて」
手を軽く振りながら部屋を出て行った将烈の背中を見ていた波幸は、忙しいながらにも綺麗に整頓されている書類の山を見て、それからこちらは適当に投げ出されている将烈の替えのワイシャツを見て、再びドアの方を見つめるのだ。
「あー、肩凝った・・・」
険しい顔つきで首を横に動かしながら、将烈は屋上に来ていた。
以前は締めきりになっていた屋上だが、将烈が内緒で破壊をしたため、鍵がなくても入れるようになっていた。
屋上にぽつんと置いてあるベンチに腰掛けると、ポケットから煙草を取り出そうとまさぐってみるが、そこに探し求めているものは無かった。
「・・・はあ。置いてきたか」
デスクの上に煙草を置いてきてしまったことを思い出した将烈だが、戻って取ってきたまで吸おうという気力はなかったようだ。
くだらない地位や権力の椅子の取り合いで、余計な仕事まで回されたんじゃたまらないが、放っておくとそれはそれで処分も出来ないため、邪魔に感じてしまう。
目の上のタンコブというものは、本当に邪魔で仕方がない。
なぜ将烈がそこまで目の敵にされているかと聞かれると、答えるまでも無いだろう。
それは、この方たちが答えてくれた。
―証言者1 炉冀
「ああ、あいつね。なんていうか、真面目なんだろうな。適当そうに見えて、基本すごく真面目な奴だと思う。曲がったことが嫌いだから、すぐに上司にも刃向かってたし。間違いだって指摘するし、筋の通らないことは納得が行くまで説明を求めてたかな。まあ、それはきっと、相手が自分よりも上の立場だったからだろうね」
―証言者2 榮志
「え?将烈さん?確かに上には嫌われてるな。噂じゃ、将烈さんが今の地位にいるのって、上が将烈さんの動きを監視するためだってあったけど、それが裏目に出て、逆に将烈さんが上の動きを把握できるようになったから、前よりも行動がしやすいって言ってたぜ?ジジイどもは将烈さんを潰そうと必死だけど、多分、いや、絶対に無理だろうぜ。なんたって、将烈さんの覚悟とあのハゲたちの覚悟じゃ、天と地ほどの差があるからな」
―証言者3 櫺太
「・・・・・・」
―証言者4 火鷹
「将さんはすげーよ。うん、すげー。何がすげーって、俺達に言うだけあって仕事早いし、やることちゃっちゃとやってるし、公私混同もしない感じ?たまーに将さんもちょっとしたミスとかするときあるんだけど、そんときは将さん『悪い』とか『間違った』って言ってくれるし。そういう将さんの素直なところ、俺好きだなー。てか意外と天然だったりするよな。この前なんて、書類見ながら歩いてたからだけど、壁に激突してたし。あれはまじで笑った」
このようなよく分からない証言から分かるように、将烈はこういった奴らにはとても好かれているようだ。
屋上でぼーっとしていた将烈は、日頃フル回転させている脳みそを休めているように見えるが、ここでぼーっとしているように見えても、何かしら考えているのだ。
その頃、部屋に残された波幸は、将烈のデスクの上に煙草の箱があるのを発見した。
「あれ?」
その箱を持ってみるとまだ中身もあることから、単に忘れたのだろうと分かる。
将烈がどこに行ったのか、おおよその見当がついていた波幸は、それを持って将烈がいるだろう屋上へと向かっていく。
屋上に向かうための階段には荷物が溢れており、まるで物置のようになってたのだが、それも今では綺麗なものだ。
どうしてかと言うと、ここにあった邪魔だった書類や報告書は、将烈が処理をしてまとめて片したからだ。
ドアノブを回して屋上に辿りつくと、そこあるたった1つのベンチに、見覚えのある姿が映る。
「将烈さん」
「ん?」
「これを」
そう言って煙草を見せれば、将烈は「お、ありがとな」と言って受け取った。
ライターは持っていたようで、すぐに一本吸い始めた。
すぐにこの場から立ち去ろうと思った波幸だったが、今なら聞けるかもしれないと、思い切って問いかけてみる。
「あの、将烈さん」
「なんだ?」
「将烈さんは、いつ寝てらっしゃるんですか?」
「・・・あ?」
何言ってるんだ、と言わんばかりの目を波幸に向けてきた将烈に、波幸は事情を説明する。
すると将烈はそういうことかと分かったようで、空に向かって煙を吐いた。
「そういうことは、お前が気にすることじゃねえよ」
「しかし、将烈さんが倒れてしまったら大変ですし」
「昼寝だってしてるし、飯だって食ってるからんな心配するな」
「昼寝なんかしてるんですか。ご飯だっていつ食べてるんですか」
「眠い時に寝てる。飯は多分お前より食ってるぞ」
「え」
「昨日なんか、何食食ったか分からねえくらい食ったしよ」
そう言うと、将烈は指を折りながら昨日口にしたものを数えだした。
「カツ丼だろ、牛丼だろ、鮎の塩焼きだろ、サバの味噌煮だろ、カルボナーラに蕎麦だろ、みたらし団子に草団子、大福にチーズケーキ、かりんとうにシュークリーム・・・やべぇな。結構食ってんな」
どうやら、自分で言っていて、摂取したカロリーのことを気にし始めたようだ。
それを聞いても、波幸からしてみれば、いつ食べているのか分からないため、首を傾げるしかなかった。
「食べている姿をあまり見かけませんが」
「まあ、仕事始めりゃあんまり口にはしねぇが、一区切りすりゃ食うぞ。いつも丁度お前は離れてるときが多いかもな」
「そうでしたか。食べているなら良かったです」
というか、食べすぎだが、そこはあえて言わないでいた。
「さて、戻るか」
「もうよろしいので?」
「ああ、さっきまで寝てたしな。今日中に裁判所に届けねえといけねぇやつもあるし、さっさと終わらせてゆっくり寝たいしな」
そう言って、将烈は屋上を後にした。
波幸もその後ろを着いていき、部屋に戻ると一気に仕事を進めた。
後日のこと
「将さん!召し上がれ!!」
「・・・なんだこれは」
「何って、見りゃわかるっしょ!おにぎりだよおにぎり!!」
「でけぇよ。無駄にでけぇんだよ。それを俺にどうしろってんだ。喉に詰まらせろってか」
「将さんのために俺頑張ったんだよ!この中に、将さんの好きなもの沢山入れておいたから!食ってくれ!」
「・・・・・・」
火鷹が、将烈の顔の3倍ほどもあるおにぎりを作ってきたようだ。
そのおにぎりを受け取って中を見てみると、恐ろしいことに、洋食和食中華デザートが一緒になって詰まれていた。
「将さんもしかして、嬉しすぎて声が出ない!?」
「・・・・・・」
「将烈さん・・・?」
黙ってしまった将烈に声をかけると、将烈はいきなり火鷹にむかってそれを投げつけた。
顔面で受け取った火鷹は、その場に倒れる。
「食べ物を粗末にするんじゃねえ。それはてめぇで食っててめぇで責任取れ」
「ふ、ふぁい・・・」
その後、涙目になりながら、でかいおにぎりを食している火鷹の姿を見た者がいたとか、いないとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます