第33話

 それからさらに数日後の放課後。


「どうしたの?」

「……え? な、何が?」


 今日の放課後は水瀬さんと一緒に帰っていたんだけど、途中で水瀬さんは唐突に俺に向かってそう尋ねて来た。 でも俺は質問の意図がよくわからなくて聞き返してしまった。


「うーん? いや何だか今日の矢内君は難しい顔をしてるからさ、何かあったのかなーって思ってね」

「え? あ、あぁ……」


 水瀬さんはそう言いながら眉間を指でトントンと触っていた。 どうやら俺の眉間にしわが寄っているらしい。 自分でも確認するために眉間に手を当ててみたんだけど、思いのほかしわが寄っていた。 うん、これじゃあ確かに何かあったのか尋ねたくもなるわ。


「それで? そんな顔をしてるって事は何かあったのかな?」

「あ、あぁ、うん。 えっと……」

「んー? あー、わかった。 勉強中に難しい問題が解けなくてずっと悩んでたんでしょ?」

「え? あ、あぁ……うん、まぁ大体そんな感じかな。 ちょっとだけ難しい問題があってさ、それをどうやって解いたらいいかをずっと悩んでたんだ」

「あはは、やっぱりねー。 ふふ、相変わらず矢内君は勉強熱心だねー」


 本当は今悩んでいるのは部活から同好会に格下げされてしまう問題をどう解決すれば良いかで悩んでいたんだけど……まぁ、でもそんな事は水瀬さんに伝えなくてもいいか。 この件に関しては水瀬さんには全く無関係の話だしさ。


 結局部員集めについても難航していた。 部員募集のポスターを作ってはみたけど、こんな時期に部活に入ろうとする生徒はいるわけもなかった。 そもそも文芸部って人気ないしさ。 今時は活字だったり紙媒体の本を読んでる人の方が少ないんだしさ。 うーん、いやでも本当にどうしたもんかなぁ……


「んー、でも矢内君がそんなに悩むなんてさ、よっぽど難しい問題なんだろうね。 まぁアタシは馬鹿だからどんな問題を見てもアタシには全部難しそうにしか見えないけどさ、あはは」

「あ、あはは。 まぁそうだね、今回の問題はちょっと難しいかもしれないなぁ……」

「ふーん、そっかそっかぁ。 なるほどね」


 俺がそう言うと水瀬さんは腕を組みながらうんうんと頷き出した。


「よしっ! それじゃあさ、気分転換にちょっとだけ今から出かけない?」

「え……え!? ど、どこに?」


 突然まさか水瀬さんからのまさかのお誘いが飛んできた。


「うん。 良かったらさ、数駅先にあるショッピングモールに行かない?」

「え? ショッピングモール? べ、別に良いけど……でもショッピングモールで気分転換って何をするの?」

「あはは、まぁいいからいいから。 気にせずアタシについてきなよ」

「う、うん? わかったよ」


 水瀬さんにそう言われて俺達は一駅先のショッピングモールへと向かった。


◇◇◇◇


 それから数十分後、俺達はショッピングモールに到着した所だった。 流石に学校から数駅離れた場所にあるから、同じ学校の生徒らしき人とすれ違う事はなかった。


「よし、着いたねー」

「う、うん。 それにしても何でショッピングモール? 何か買いたい物でもあるとか?」

「うーん、まぁそんな感じかなー。 じゃあこっち来て来てー」

「え? う、うん」


 水瀬さんはそう言ってスタスタと前を進んでいったので、俺もその後ろについていく事にした。 水瀬さんに連れられて歩くこと数分、ショッピングモール内にある広場に到着した。


「よし、到着!」

「え? ここが目的地なの?」

「うん、そうだよ。 あ、ちなみになんだけどさ、矢内君は好きな果物とかある?」

「え? 果物??」


 水瀬さんからあまりにも唐突過ぎる質問が飛んできたんだけど、それでも俺はちゃんと考えてから答える事にした。 いやそれにしても今日の水瀬さんは唐突な言動が多い気がするな。


「う、うーん……まぁイチゴとかかな?」

「なるほどなるほど! 王道だねぇ! オッケー、わかった! じゃあとりあえずそこのベンチで座って待っててよ」

「え? え?」

「よし! それじゃあちょっと行ってくるねー!」

「え、あ、ちょっ……!」


 水瀬さんはそう言って何処かに駆けだして行ってしまった。 俺はわけもわからず一人でここに放置されてしまったんだけど……まぁきっと何か考えがあるんだろうと思い、俺は水瀬さんに言われた通りベンチに座って待つ事にした。

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