第13話

 翌日の放課後。 今日は水瀬さんと一緒に帰宅している所だった。


「ふぁあ……」

「どうしたの? 凄い欠伸だね」


 その下校途中に俺は水瀬さんの前で大きな欠伸をしてしまった。 昨日は夜遅くにバレンタインについて調べていたせいでかなりの寝不足になっていたんだ。 しかも調べてみた所で結局バレンタインに恋人と何をすればいいのかよくわからなかったんだけど……一緒にチョコ食べて終わるだけの日じゃないの? いや知らんけど。


「あぁ、いや、まぁちょっと勉強してたら寝るのが遅くなっちゃってさ」

「ふぅん? そうなんだ」


 まぁ当然だけどそんなしょうもない事を水瀬さんに伝えるわけにもいかないので、俺は笑いながらテキトーに誤魔化す事にした。


「そういえば水瀬さんは昨日は友達と遊んでたんだよね? 楽しかった?」

「うん、そりゃあもちろんねー」

「そっか、うん、それなら良かったよ。 あ、ちなみにだけどさ、水瀬さんって友達と普段何して遊ぶの?」


 という事で俺の話はテキトーに誤魔化しつつ、水瀬さんの話を聞く事にした。 それに水瀬さんが普段何して遊ぶのかも俺的には普通に興味があった。 もしかしたら今後のお付き合い(偽)に何かしら役立つ可能性はあるかもしれないしさ。


「アタシ? うーん、いつもはカラオケに行くかご飯食べに行くか、あとは買い物に行くかのどれかかな。 あ、ちなみに昨日は買い物に出かけてたよ」

「へぇ、そうなんだね。 ……って、あっ、もしかしてその小指にハメてる指輪って、昨日買ってきたやつ?」


 俺はそう言いながら水瀬さんの小指に付けているピンクゴールドの指輪を見てみた。 えぇっと、確か小指にハメる指輪はピンキーリングって言うんだっけ? そのピンキーリングは多分だけど昨日までは水瀬さんは身に着けてなかった気がした。


「おっ、わかる? そうそう、昨日買ったんだ。 可愛いでしょー?」

「うん、良いね。 水瀬さんに似合ってるよ」


 水瀬さんに尋ねてみたけどやはり正解だったようだ。 その小指にハメている指輪はシンプルで可愛らしい形をしており、水瀬さんにとても似合っていた。 ついでに今更だけど気になった事があったので、それについても水瀬さんに聞いてみた。


「あ、そういえば凄い今更なんだけどさ、水瀬さんって指輪が好きなの?」

「うん、めっちゃ好きだよー。 今アタシさぁ飲食でバイトしてるからネイルとか出来ないんだよね。 だからネイルが出来ない分、今は指輪にお金めっちゃかけちゃってるんだ。 ほらっ、指輪ならバイト中は外せば良いだけじゃんね? あははー」

「あぁ、なるほどねー」


 という事で今日は水瀬さんは指輪がめっちゃ好きだという新しい気づきを得る事が出来た。 いや水瀬さんが毎日沢山の指輪を身に着けてる時点で何となくわかってたけどさ。 でもまぁもしかしたらこれも役立つ場面が来るかもしれないので、しっかりと覚えておこう。


 そのあとも水瀬さんと一緒に他愛ない話をしていると、気が付いたら最寄りの駅に到着していた。 俺と水瀬さんは利用する路線が違うのでいつもここで解散をしていた。


「今日もありがとう、それじゃあまた明日」

「うん、また明日ねー」


 俺は水瀬さんにそう言って自分の利用している電車の改札に向かおうとした。 でもその時……


「んー? って、あれ? おい由美じゃん!」

「……うん?」


 でもその時、唐突に水瀬さんを呼びつける男の声が聞こえた。 俺は何となく気になったので、後ろを振り返って水瀬さんの方を見てみた。 すると水瀬さんの後ろには高身長のイケメン男が立っていた。 多分高校生だとは思うんだけど……でも制服が俺らと違うから他校の学生かな?


「……げっ」


 そして水瀬さんはその高身長イケメン男を一目見た瞬間、明らかに嫌そうな顔をしていた。 俺は何となく不穏な空気を感じ取ったので、一旦改札に入るのを止めて水瀬さんの方に近づいて声をかけた。


「えっと、水瀬さんの友達なの?」

「いや違うわ」

「え……あ、そ、そうなんだ?」


 とりあえず俺は水瀬さんにそう尋ねてみたんだけど、水瀬さんはめっっちゃ冷たい表情を相手の男に向けながらそう返事を返してきた。


(え……な、なにこれめっちゃ怖いんだけど……!?)


 水瀬さんがそんな冷徹な表情をしている所を俺は初めて見たので、俺の背筋は一瞬で凍ってしまった。

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