第192話 神殺し
「よし、だいたい拭き取れたかな」
俺は目黒さんのドローンに水気が残っていないか、かえすがえす確認していた。
その時だった。急にドローンが飛び立つ。
「え! あれ?」
そしてそのままドローンが空中でふるふると振動し始める。うっすらと白い煙さえあがり始める。
「うわっ、やっぱり水入って、壊れちゃった? 目黒さんっ!」
俺は洗面所にいったまま戻ってこない、ドローンの持ち主たる目黒さんに向かって声をあげる。
返事はない。
数歩、そちらに進んで、しかし思い直して足を止める。さすがにこの状況で洗面所に行くのは不味いだろう。いくら緊急事態とはいえ。
どうしたものかと、ドローンの方を振りかえる。
すると先程までブスプスと白煙をあげていたはずのドローンが、いつの間にか、なんともない様子で空中に浮いていた。
「え、大丈夫、なのか?」
そのドローンの下の方に何か黒い影のような物がみえる。結構大きい。
一瞬、ドローンの影かと思ったのだが違った。
空中に停止したままのドローンと違って、それは動いたのだ。
「うわっ、ごきぶ──」
俺は叫ぶのも早々に、近くにたまたまあった新聞紙ソードを手に取る。
「目黒さんの家に出たって話しをしてたら、まさかうちにも出るとは……」
黒光りしたそれは、高速で移動を開始する。
俺は新聞紙ソードを振りかぶり、気合い一閃、叩きつける。
「とった! ──なにっ」
俺の剣閃の殺気をまるで感じ取ったかのように直前で直角に曲がるそれ。
新聞紙ソードの一撃は軽やかにかわされてしまう。
しかも曲がった方向が、俺へと接近するコースだった。
「うわっ」
あわや片足の甲へと登られてしまいそうな直前。俺は素早く飛びのく。そのまま飛び退き様に放った打ち下ろしも、スルリと回避されてしまう。
「あ、危なかった。こいつ、できるな……」
俺がこれまでに自宅で相手をしてきた害虫の中でもトップクラスの速度。そして巧みな回避。
「まるで、殺気を読まれたかのような……まさかな……」
俺はまさかとは思うが、いまはじっとしているそれを、しっかりと見据える。
そのまま構えを解くと、ぶらんと新聞紙ソードを下げる。
いつ、急にそれが動いても良いように視線はとらえつつ、呼吸を整えていく。
ゆっくりと息を吐ききり、時間をかけて吸い込んでいく。
まるで、俺を待っているかのようにじっと動かない、それ。
俺は自信の心のなかに静かな領域がゆっくりと広がっていくのを意識しながら、その静かな領域のなかに身を沈めるようにイメージをする。
頭が澄みわたる。
下ろしていた新聞紙ソードをあげると、そのまま正眼に構える。
俺の動きに合わせるように、それも動き出す。
──飛んだ。大丈夫、見えている……ここだ──
次の瞬間、決着がつく。
翔び上がったそれを横薙ぎにふった新聞紙ソードがとらえ、壁と挟み込むようにして、その命を刈り取ることに成功していた。
「強敵だった」
その姿勢のまま、相手を称えるように俺が呟くと、背後から物音がする。
「……ユウト、何してるの?」
早川の呆れたような声に、俺はそっと視線をそらして新聞紙ソードを下ろすのだった。
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