第188話 安堵と失望
──スマホの電波が無いということは、多分基地局がダメなんだろうな。停電してテレビもパソコンもつかない。情報が一切、手に入らないって、初めてかもしれない
薄暗い室内で、俺は早川の体温を鮮烈に感じながらも、少しでも気をそらそうと現状を必死に再確認していた。
雨音は激しくなるばかりだ。雷も途切れ途切れに鳴り響いている。
そんな状況で、俺と早川は二人して黙ってベッドに腰かけていた。
ぴたりとくっついて。
そして、俺たちの間には先程から沈黙が続いていた。その沈黙には、まるで質量と粘性があるかのようだった。ぴたりとくっついた俺と早川を、沈黙がより強固に結びつけているかのような、不思議な感覚。
──どうしよう。何か早川を安心させてあげるようなことを話した方がいいんだろうけど。やばい、何も思い浮かばない。
自身の高まる鼓動が邪魔で、俺は冷静に物事を考えられない。気を抜けば、頭のなかは隣から伝わってくる熱ですぐさま一杯になってしまいそうになる。
──だめだ。だめだ。考えろ。この雨だと、ここも避難指示が今にも出ていても、おかしくないないぐらいの状況。その場合、どうやって避難する? 早川を連れて。それとも避難自体が危険な可能性だってある。なら、家に留まるのか。万が一にも早川に危険が及ばないようにするのに、最善の選択肢は……
俺は早川を守ってあげなければという使命感を必死になって奮い立たせる。
「ユウト……」
俺が内心の葛藤と取っ組み合いをしていると、早川から名前を呼ばれる。
そちらを見ると、俺を間近から見上げる早川と目が合う。
赤らんだ目元。その瞳は少し不安そうに揺れていた。
俺は思わず息をのむ。
その時だった。轟音と化した雨を通して、微かに何か聞こえる。なんだか、名前を呼ばれているようだ。
空耳ではなさそうだった。
というのも、どうやら早川にも聞こえたようで、ぴたりとくっついていた俺たちの間に少しだけ隙間が生まれる。
「目黒さんの声、かな。ユウト」
「そうかも。もしかしたら避難するように声がけしに来てくれたのかな」
顔を見合わせる俺たち。
その俺たちの間には、少し前まで二人を包んでいた、沈黙と熱による空気感がいつの間にか薄れていた。
俺は今の状況下で大人の人間が来てくれたことへの安堵の気持ちと、先程までを惜しむ気持ちの両方を感じながらも、早川と一緒に声のした玄関へと向かった。
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