第148話 フルダイブ
「フルダイブって、すごいな……」
俺が部屋を出て最初に感じたのは、ユシの鼻の良さだった。
フルダイブで感覚が同期している設定だからだろうが、匂いがとても詳細に把握できるのだ。
人で言えば、まるで空気中に漂う匂いの粒子が幻視出来ているのかと勘違いするぐらいの精度。
ハラドバスチャンの内部構造はダンジョン&キングダムのゲーム画面で見知っているのだが、それがなかったとしても、どこに何があるのか、匂いの漂いかたで大まかに把握できてしまう。
視界の隅のメニュー画面にピコンと、通知が表示される。
「スキル『嗅覚認識』を獲得、か。さっきは『忍び足』スキルを獲得してたし。随分とスキル獲得が早いな。なら、これとかどうかな」
俺はものは試しとばかりに壁に近づくと、手を伸ばして、壁に爪を引っかける。ぐいっと自分の体を持ち上げてみると、楽々と体が壁を登っていく。楽しくなって、そのまま壁をはい回るように移動してみる。
──すごい、片手一本でも、全然落ちないっ
体の小ささのわりに動きに全く制限のないことから少し予想していたが、ユシの体は生後二時間とは思えない筋肉量のようだ。
そんなことをしていると、立て続けにスキルが獲得されていく。
壁を上りきり、天井に張り付いたままそれを確認していく。
「『壁登り』に『爪運用補正』? あ、忍び足が『隠身』になった」
爪で壁を登っただけで手に入れた『壁登り』と『爪運用補正』、そして『隠身』の詳細をメニュー画面で読んでいく。
『壁登り』は床以外を移動する際に、移動速度が上昇するようだ。
『爪運用補正』は爪を使った攻撃にプラスの補正が入るらしい。
「『隠身』はアクティブスキルなのか。使用すると、一定時間、周囲の観測者の五感に感知されにくくなる……いや、これは結構なチートでは?」
俺はメニュー画面を見ながら唸る。
今の自分がコボルドだからか、逆の立場で考えると、匂いの感じられない敵が身近に潜んでいる可能性には、結構ゾッとするものがある。
「これ、どれくらい使えるものなのかちょっと試しておく必要があるな……」
そんなことを呟いているときゅるきゅるとユシのお腹から、かわいらしい音がする。
それと同時に感じられる空腹感。
「ある意味育ち盛りだもんな。というか空腹とかあるんだ」
俺はクンクンと無意識に鼻を鳴らす。
ハラドバスチャンの厨房から漂う一筋のいい匂い。なんとなくだが、シユの体は成人と同じ食べ物を受け付けれそうだ。
「折角だから……」
俺はフフフっと一人笑うと、スキル『隠身』を発動させ、天井にはりついたまま厨房目指して進み始めた。
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