第98話 クロとクロコ
「おはよう、クロ。あれ、何かあった?」
学校が再開になる日の早朝。俺はクロを見て何か違和感を覚える。
──なんだろう。何か変な気がする。あれ、そういえば最後にクロを見たのも……
そういえばクロを見るのも久しぶりだと気がつく。てっきり、家か庭野のどこかにいるとばかり思っていたのだが、なんとなく尋ねてみる。
「というか、クロ。もしかして昨日とか、どこか出かけてた?」
「緑川さんのお宅にお邪魔してました」
「えっ。そうなんだ……」
「はい。お呼ばれしました。まずかったでしょうか?」
「いや、そんなことはないよ」
口ではそう言いつつ、ちょっと複雑な気分だ。
──いつの間に、そんなに仲良くなってたんだろ。まあでも、確かによく、やり取りはしてたか
「──ユウト、時間は大丈夫ですか?」
「あ、まずいっ!」
気がつけば思いの外、時間が過ぎていた。俺は急ぎいつもの朝のルーティーンで新聞ソードを振るって害虫を潰すと、お弁当作りを始めた。
「こちらは片付けておきますね」
「ありがとっ!」
クロがいつものように潰した害虫の残骸を処分してくれるのを尻目に、俺は手早く準備を進めていくのだった。
◇◆
sideクロコ
「ユウト様は無事に出発されました。また、ユウト様はクロコとクロの違いを感じ取られた様子でした。しかしクロがするように、クロコが示唆をすると、深くは追及なさりませんでした」
「了解しました」
「報告を終了します」
クロコはクロとの通信を切断する。
クロは
そしてそれは、正解でもあり不正解でもあった。
ユウトがクロコとクロの僅かに違和感を感じ取った点から見れば、常時データリンクを行っていたいた場合、クロコがクロとは異なる存在だとばれていた可能性が高まっていただろう。
クロへの報告を終えたクロコは、ユウトの部屋の充電器の上にいた。
クロコはこれまでのクロの行動記録を保有しており、今現在それに基づいて、すべての行動を行っているのだ。
「ブルーメタルセンティピードの高濃度魔素結晶体との融合を開始します」
いつものクロが行っている行動。朝にユウトが倒したブルーメタルセンティピードの魔素結晶体をクロはいつも、ユウトが学校にいる間に融合していた。
忠実にそれを再現するクロコ。
しかしクロコが魔素結晶体との融合により存在進化を始めることで、以前のクロと、クロコの同一性に、僅かにズレが生じ始める事となる。
「存在進化の成功を確認」
ユウトにその存在に違和感を持たれ、疑われた末に誤魔化したという、クロが経験したことのない経験をした、クロコ。
そのクロコの存在進化が向かう、先。
それがどこへと至るのか。クロコもクロも、いまだ知るよしもなかった。
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