第95話 新たなバズり
私はほっと息をつく。
「クロさんは、その分体、ですかね。それを自分としてユウト君のそばに置くということですね」
「そうです」
そういってクロが小さなお手々を振るう。
分体ホログラムが一礼すると部屋から出ていく。
「名前はクロコ。機能は以前の私と同等にしてあります。会員限定の有料動画配信も以前と同様に可能です。もうユウト様の元へ向かわせました」
「ありがとうございます」
ちゃんと約束を守る姿勢をみせるクロに私はお礼を伝える。
「それと私はここで暮らしますので、戸籍をお願いします」
「わかりました。手配いたします」
「その職員の養子で」
そういってクロが指差したのは、羊羹を食べ損ねてしょんぼり気味の加藤先輩だった。
「お、俺っ!」
思わず叫んだあとに首をぶるぶる横に振る加藤先輩。
──どうしてわざわざ? 何かクロにメリットがあるのかしら。
私の不審な思いが顔に出たのか、クロが珍しく追加で説明してくれる。
「この見た目です。正式な保護者が形ばかりでも決定していた方が人の社会では動きやすいという判断です。その職員は私に命の恩があるはず」
「──わかりました。そのように手配します」
「み、みどりかわ~」
加藤先輩が何か言っているがスルーしておく。とりあえずクロについてはこれで何とかなりそうだ。
問題はこちらか、とばかりにオボロさんの方を向く。
──おかわりの抹茶を豪快に飲み干している所作は惚れ惚れするぐらいなんですけど、はぁ
そこへ、目黒が話に入ってくる。
「あ、あの、緑川先輩。一つ報告です」
「なにかしら」
「見てください」
そういって、目黒がタブレットのディスプレイをこちらへと向ける。
そこに映っていたのはオボロがスタンピードの主を討伐する動画。
それも目黒が次々に動画を切り替えていく。
「あの、これまでオボロさんが討伐されたスタンピードの主のうち、半数以上がその現場を動画に撮られています。それも複数の配信者に、です。人気配信者もなかにはいて……。いま、ネットでは謎の女武者ってことで絶賛バズり中です……コメントも、こんなに沢山、です」
「素顔もばっちり映ってるわね」
「はいです。すいません。人手がなくて到底規制をかけるどころじゃありませんでした。──なので、このままではオボロさんは、ユウト君のとこに顔は出せないかと思うです」
皆の視線が抹茶を飲み終えたオボロに自然と集まる。
「もういっそ、動画配信者としてデビューをするべきでしょう。それが最終的にユウト様の利に繋がります」
そんなことを言い出すクロ。
「ふむ。よくわからぬが。良かろう。御主人殿の御心に叶うと、我も感じる。円殿、再び補佐を頼めるか」
オボロさんも反論するかと思いきや、なぜか乗り気だった。
真剣な顔でこちらを見てくるオボロさんに、私は気がつけば協力を約束していた。
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