第89話 明晰夢
俺は夢を見ていた。
いわゆる明晰夢というやつだろうか。
おれ自身の体はないのだが、視点も自由に移動できるし、これが夢だという自覚もある。
夢の登場人物は二人。
一人はクロだ。
そしてもう一人。見たことのない女性。
だが、夢だからだろう。名前がわかる。オボロだ。
真っ黒な袴に上半身だけ防具っぽいものをつけているから、もしかしたらコスプレ界隈の方だろう。
そんなクロとオボロだが、二人はなぜか俺のパクックマの仮面を、左右から手を伸ばして持っている。
一つの仮面を二人で持っているのだ。それも、絶妙に息が合っていなくて、なんだかとても動きにくそうだ。
オボロが前に進もうとしているのに、クロはなんだかぼーっとしていて、結局引きずられるようにしてついていっている始末。
──あんなクロ、見たことないな。まるで脱け殻みたいだ。
俺は声をかけようとして、自分の体がないことに気がつく。声が出ない。
──夢なのに、融通が効かないとは。明晰夢ならもっとこう、完全に自分の思い通りになりそうなものだけどな。
そうしているうちに、オボロが何やらごそごそと始めている。
どうやら、お掃除をしているようだ。片手で、次々に掃除道具をもちかえている。
場面は気がつけば街中だ。そして気がつけば緑川さんの姿もあった。緑川さんが掃除道具をオボロに手渡してくれていた。
──緑川さんがオボロのお手伝いをしてくれているのか。夢特有の超展開だ。というかそんな超展開がありなら……
俺はまずは自分の体が現れないか、強く念じてみる。
──体。体。体。あ、でた。
気がつけば自分の体で、掃除をするオボロたちの背後にたっていた。
そうして自分の体を持って、オボロとクロの背中を見ていると、どうやら二人とも同じくらいうっすらと体が透けて見えるのだ。
──ああ、まだしっかりしてないんだ。このままだと二人とも動きにくそうだよね
俺はなんとなく、どうしたらいいのかわかる。
──こういうところは夢は便利だなー。
そんなことを考えながら二人に近づくと、そっと手を伸ばして、パクックマの仮面に手を当てる。
俺を含めて、オボロとクロの三人で一つの仮面に手を添えているような形になる。
──で、こう、だな
俺の現れたばかりの夢の中の体が薄くなっていく。その分、オボロとクロの体の存在感がまし、うっすらと透き通っていた二人の体がしっかりとしたものへと変わっていく。
二人の手がパクックマの仮面から離れる。次の瞬間、俺は夢から覚めていた。
「ふわぁー。……寝ちゃってたか」
俺は片手にパクックマの仮面を持ったままベッドで、寝てしまっていたようだった。
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